【大阪の離婚弁護士が教える】配偶者に同居を求めることはできるか【民法752条】【同居調停】

民法752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。

これは夫婦の同居義務を定めた規定です。

では、一方配偶者が家を出て行った場合に、他方配偶者は上記規定に基づいて、同居するように求めることができるのでしょうか。

この点については、同居を求める調停や審判を申し立てることは可能です(家事事件手続法・別表第二・1項)。

これがいわゆる「同居調停」や「同居審判」です。

したがって、法的手続を利用して、同居を求めること自体は可能です。

同居を求めた結果、一方配偶者がその求めに応じ、同居する結果となれば特に問題はありません。

これに対して、一方配偶者が同居を拒んだ場合には、裁判所が同居を強制させることは容易には認められないと考えられています。

その理由としては、破綻状態にある夫婦の人格をかえって傷つける結果となり、裁判所の後見的機能を超えていることなどが挙げられています(『離婚・離縁事件実務マニュアル 第4版』111頁)。

以下では、同居を認めなかった裁判例をいくつか紹介してみたいと思います。

【東京家裁昭和43年6月4日審判・判タ239号302頁】

 夫婦の同居義務を考えてみると、抽象的規範として、夫婦は互いに同居する義務があるということができるけれども、この同居義務は、夫婦の円満な婚姻共同生活の継続を目的としているものであるから、現実において夫婦間の信頼関係が全く失われ、円満な婚姻共同生活の継続が期待できない場合には、具体的な同居義務を形成することができないものと解される。本件においては相互に離婚の調停や離婚訴訟を提起して抗争し、夫婦としての愛情を失い、夫婦関係は全く破綻し去り、円満な夫婦の共同生活を期待することはできないものと認められるので、かような場合には相手方に対し申立人との同居を命ずることはできないものと判断される。

【札幌家裁平成10年11月18日・家月51巻5号57頁】

 夫婦は、合理的な理由のない限り、同居すべき義務を負っているが(民法752条)、この義務は、婚姻費用の分担義務などと大きく異なり、その性質上任意に履行されなければその目的を達成できないものであり、いかなる方法によってもその履行を強制することは許されないというべきである。そうすると、家事審判法9条1項乙類1号に定める夫婦の同居に関する処分として、同居を拒んでいる夫婦の一方に対し、同居を命ずる審判をすることが相当といえるためには、同居を命じることにより、同居が実現し、円満な夫婦関係が再構築される可能性が僅かでも存在すると認められること、つまるところ、同居を拒んでいる者が翻意して同居に応じる可能性が僅かでもあると認められることが必要であると解すべきである。
 これに対し、夫婦である以上同居義務があるのであって、同居を拒否する意思がいかに固くとも、同居を拒否する正当な理由がない限り、同居を命ずる審判をすべきであるとの見解もあろう。しかしながら、同審判は、夫婦を同居させて円満な夫婦関係を再構築させることを究極の目的としてなされる家庭裁判所の後見的処分の一環であって、同居が実現されないことに対する帰責性が夫婦のいずれにあるのかを確定することにその本旨があるわけではないと解すべきであるから、同居を拒んでいる夫婦の一方に翻意の可能性が全くない場合には、前記の同居義務の性質に照らし、同居を命ずる審判をすることは相当でないというべきである。
 もっとも、夫婦の一方が一見強固に同居を拒んでいるように見える場合であっても、それが自己の経済状態その他の現状を無視し、今後の生活設計などに関する具体的な展望を欠いた浅薄な考慮に基づくものであったり、当該夫婦のそれまでの生活史や紛争の過程において生じた様々な誤解あるいは意見・価値観の対立に起因している場合などは、家庭裁判所が審判により、同居を拒んでいる夫婦の一方に対し、現状を正しく指摘して認識させ、あるいは、紛争の過程で争点となった様々な事項について、事実を認定して誤解を解き、法律や条理に従った一定の見解を示すなどして同居を命じることにより、同居を命じられた者が自己の非を認め、あるいは、自己の立場をもう一度冷静に見つめ直すなどして翻意に至るということもないとはいえない。そうすると、前記の翻意の可能性の有無の判断においては、単に審判時に夫婦の一方が現に強く同居を拒んでいるという一事をもって即断すべきでなく、同居を拒んでいる真の理由、当事者間の婚姻関係の破綻の程度、それに対する当事者双方の有責性、当事者の経済状況、特に同居を求める側から同居を拒否する側に婚姻費用が支払われている場合は同居を拒否する側の生活がその婚姻費用に依存している程度、未成熟子がある場合にはその状況、さらには審判がなされること自体による影響力をも含めて総合的に考慮したうえで客観的に予測されるところの将来的な翻意の可能性についても可能な限り考察すべきである。(中略)
本件における相手方の離婚の意思及び同居を拒否する意思は極めて強固なものであるところ、さらに前記2の諸事情を総合考慮しても、今後相手方において、翻意して申立人との同居に応じる可能性はないといわざるを得ない。(中略)
以上により、申立人の心情については十分理解できるものの、本件申立てについては却下するほかないから、主文のとおり審判する。

【東京高裁平成13年4月6日・家月54巻3号66頁】

 夫婦の同居義務は、夫婦という共同生活を維持するためのものであるから、その共同生活を維持する基盤がないか又は大きく損なわれていることが明白である場合には、同居を強いることは、無理が避けられず、したがって、その共同生活を営むための前提である夫婦間の愛情と信頼関係が失われ、裁判所による後見的機能をもってしても円満な同居生活をすることが期待できないため、仮に、同居の審判がされ、当事者がこれに従い同じ居所ですごすとしても、夫婦が互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には、同居を命じるのは相当でないと解される。(中略)
以上のような抗告人と被抗告人との関係、互いの感情等に徴すると、仮に、被抗告人に対し、同居を命ずる審判がされたとしても、抗告人と被抗告人とが、その同居により互いに助け合うよりも、むしろ一層しきりに互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が極めて高いと認められるので、被抗告人に対し、同居を命じることは相当でないといわざるを得ない。

【大阪高裁平成21年8月13日決定・家月62巻1号97頁】

 同居義務は,夫婦という共同生活を維持するためのものであることからすると,共同生活を営む前提となる夫婦間の愛情と信頼関係が失われ,仮に,同居の審判がされて,同居生活が再開されたとしても,夫婦が互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には,同居を命じるのは相当ではない。(中略)
抗告人が審判(決定)に基づいて任意に同居を再開することはほとんど期待できず(同居審判の性質上,履行の強制は許されない。),仮に,同居を再開してみたところで,夫婦共同生活の前提となる夫婦間の愛情と信頼関係の回復を期待することも困難であり,かえって,これによって,互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる。したがって,現時点において,抗告人に対し,同居を命じることは相当ではない。

以上の裁判例を見るとお分かりいただけると思いますが、同居を求めたとしても、一方配偶者が同居に応じない場合には、これを強制することは困難といえます。

したがって、同居を求めたい場合には、強制的に同居させようとするのではなく、穏便な話し合いによって、一方配偶者が同居しようという気持ちになるのに期待するというのが現実的だと思われます(話し合いができない、あるいは話し合いをしても、一方配偶者が同居しようという気持ちにならない場合には、同居を実現するのはかなり難しいということになります)。