【大阪の離婚弁護士が教える】養育費の時効は5年なのか?10年なのか?

1.はじめに

養育費の時効期間について調べてみたところ、サイトによって書いていることが違って何が正解かよくわからないという状態になっていないでしょうか。

特に誤解が多いのが調停や裁判で養育費が決まった場合の時効期間についてですが、今回は養育費の時効というテーマで解説をしていきたいと思います。

 

2.養育費の時効期間は5年

民法166条1項1号を見ると、「権利を行使することができることを知った時から5年」で債権は時効消滅するということがわかります。

養育費の請求権も「債権」ですから、請求できることを知った時から5年で消滅してしまうということになります。

たとえば、毎月末日までに養育費を5万円払うという約束で2025年1月に離婚が成立したとします。

1月から5月までは養育費の支払いがありましたが、6月から支払いがストップしてしまいました。

この場合、支払期限である2025年6月30日の翌日である7月1日から時効期間がスタートすることになり、そこから5年経った2030年6月末日の経過をもって、2025年6月分の養育費は消滅時効にかかって消滅するということになります(債務者による時効の援用があって確定的に効果が生じます)。

そして、2025年7月分の養育費は2030年7月末日の経過をもって消滅時効にかかり、2025年8月分は2030年8月末日の経過をもって・・・というような形で毎月毎月消滅時効にかかっていくということになります。

以上の次第で、養育費の時効期間は5年ということになります。

 

3.調停や裁判で養育費を決めた場合は10年?

調停や裁判で養育費を決めた場合は養育費の時効期間は10年だと解説するサイトがあるようです。

しかし、これはミスリードといわざるを得ません。

この誤解は民法169条1項に次のように書かれていることから生じるものと思われます。

第百六十九条

1 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。

2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

ちなみに、「確定判決と同一の効力を有するもの」というのは、調停や審判(家事事件手続法268条1項)、訴訟上の和解(民事訴訟法267条)等を指すと考えていただければと思います。

これを見ると、調停や訴訟で養育費について定められた場合には、時効期間は10年になうように思えます。

しかし、2項をよく読んでみてください。

「前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。」と書かれています。

先ほどの例と同じく、2025年1月に離婚調停が成立し、その調停の中で毎月の養育費を5万円とするという合意をしたとします。

そして、2025年6月分の養育費から支払いがストップしたとすると、養育費が確定した時点である2025年1月の時点では2025年6月分の養育費請求権は「弁済期の到来していない債権」となるわけです。

ということで、結局、訴訟、調停等で養育費が決まったとしても、やはり原則どおり5年の時効期間ということになります。

 

3.養育費の時効期間が10年になるのはどんなとき?

169条1項でいう10年という消滅時効はどういう場合に適用されるのかというと、これは過去の未払いの養育費の支払いについて訴訟等で確定的に決められた場合には消滅時効の期間が10年となるということを意味します。

具体例を出して考えてみます。

先ほどの事案において、2025年6月から養育費の支払いがなく、2026年6月に満を持して1年分(2025年6月分~2025年5月分)の未払いの養育費60万円の支払いを求めて訴訟を提起したとします。

この訴訟の結果、原告(権利者)の主張が認められ、60万円の支払いを命じる判決が出て確定した場合には、この60万円の請求権の時効期間は10年となります。

ということで、養育費の時効期間が10年になるのは、あくまで過去の未払分について訴訟等でその請求権が確定した分に限られるということになります。

 

4.定期金債権との関係

さらに民法を読み込んでみると、ふとした疑問がわいてきます。

民法168条を見てみましょう。

第百六十八条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。

二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。

「定期金の債権」というのは、終身年金のように定期に一定の金銭を給付させることを目的とする権利のことを指します。

とすると、養育費もまさに定期に一定の金銭を給付してもらうものですので、「定期金の債権」ということになります。

そうだとすれば、民法168条1項1号によって、やはり養育費の消滅時効期間は10年なのではないかという疑問がわいてくるかもしれません。

そこで、条文をよく見てみると、①「定期金の債権」という言葉と、②「定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権」という言葉が使い分けられていることがわかります。

つまり、②を行使することができることを知った時から10年間行使しなかったときは、①が時効によって消滅するという条文構造になっています。

①のことを基本権、②のことを支分権と呼ぶこともあります。

ちなみに、改正前民法では②のことを定期給付債権と呼んでいました。

養育費に引き付けて考えると、養育費という権利そのものが①(基本権)で、毎月発生する養育費を請求できる権利を②(支分権)と捉えることができます。

とすると、2025年6月分の養育費が未払いである場合に、これを2035年6月末日までほったらかしにしていると、「定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき」に該当し、その結果、養育費そのものが時効で消えてしまうということになるわけです。

先ほどの解説とあわせると、毎月発生する養育費の請求権は5年で時効にかかり、10年間放置しておくと養育費そのものが時効でなくなってしまうということになります。

 

5.養育費を時効にかからしめないために

以上のとおり、養育費の時効期間は5年ということがわかりました。

では請求する側は、養育費が未払いであった場合に、指をくわえて時効にかかるのを待つしか方法はないのでしょうか。

実は時効期間をリセットする方法があります。

これを時効の更新といいます。

具体的には、裁判などの法的手続での請求をしたり(民法147条)、強制執行などの手続をとったり(民法148条)、あるいは債務者に債務の存在を承認させる(民法152条)といった方法を取る必要があります。

したがって、養育費が時効にかからないようにするためにはこういった手段を検討しなければなりません。

ご自身では対応が難しいケースもありますので、養育費の不払いでお悩みの場合はまずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

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