【大阪の離婚弁護士が教える】不貞慰謝料訴訟において、婚姻関係破綻の抗弁が認められることがあるのか?

不貞行為があったことを理由として、不貞相手に対して慰謝料請求を行った場合、不貞相手側から、すでに婚姻関係が破綻していたという抗弁が出されることがよくあります。

このような抗弁を出すのは、仮に婚姻関係が破綻した後の不貞行為であれば、不法行為責任を負わないためです。

しかし、実務においては、この抗弁が認められる例は極めて少ないといわれています。

ということは、婚姻関係破綻の抗弁が認められた裁判例は貴重ということができそうです。

そこで、今回は婚姻関係破綻の抗弁が実際に認められた裁判例をいくつか紹介してみたいと思います。

【東京地判平成29年11月7日】

3 争点(2)(原告とCとの婚姻関係が破綻していたか)及び(3)(被告が原告とCとの婚姻関係が破綻していたと信じたことについて過失がないか)について
  (1) 被告は,原告とCとの婚姻関係が破綻していたか,破綻していたと信じたことについて過失がないと主張するところ,不貞関係の当事者たる配偶者が第三者と不貞行為に及んだ際に,当該配偶者と他方の配偶者との婚姻関係が破綻していたときは,特段の事情のない限り,不法行為責任を負うことはないと解される(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号993頁参照)。そして,婚姻関係の破綻の有無は,永続的な精神的及び肉体的結合を目的としての共同生活を営む真摯な意思を夫婦の一方又は双方が確定的に喪失したか否か,夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり,その回復の見込みが全くない状態となったか否かという観点から検討すべきものと解される。
  (2) 婚姻関係の破綻の有無
   ア まず,原告とCとの婚姻関係が破綻していたか否かについて検討するに,前記1で認定したとおり,原告とCは,平成27年10月31日から別居を開始し,同時に,被告との同棲生活を開始し,しかも,それより相当以前に,被告に対して,明に暗に同棲をすることを求めるようなメールを送信しており,そのような行為に及んだCの意思からすると,原告との間で上記のとおり,精神的及び肉体的結合を目的とした共同生活を継続する意思が相当に失われていたと推認できること,被告が,本件通知書を受領した後である同年12月28日に,Cが原告に対して,離婚する意思を表明しており,その後もCが被告との同棲関係を解消することなく,少なくとも平成28年1月30日までは同棲生活を続けたことなどからすれば,遅くともCが原告に対して,離婚する意思を告げた平成27年12月28日の時点では,Cとの関係では,婚姻関係を維持する意思を喪失し,共同生活の実体を喪失していたと認められる。
   イ これに対して,原告は,①Cが別居を開始する際,「1か月後に帰ってくるかもしれない」などと言い,婚姻関係を継続する意思を有していたこと,②原告とCが被告とCとの同棲開始後,LINEや電話でメッセージを交わしており,平成27年11月29日には,原告の誕生日の後祝いをしていること,③Cが原告に対して生活費を支払っていることなどから,婚姻関係が破綻していないと主張する。
 まず,①の点について検討すると,上記の事実を認めるに足りる証拠はないし,仮に原告主張に係る事実を認めることができるとしても,Cが,原告からの追及をかわすための方便として述べた可能性も否定できないのであり,これをもって上記認定を左右するものではない。
 また,②の点については,確かに,原告主張の事実は認められるが,これも上記①で検討のとおり,Cが被告との同居生活を維持しつつ,原告にその発覚を防ぐために,原告との婚姻関係を維持するように活動していたとも考えられるのであり,上記事情をもって,原告とCとの婚姻関係の破綻の上記認定を左右するものとはいえない。
 そして,③の点について検討すると,確かに,前記1認定のとおり,Cが,原告に対して,生活費を支払っていることが認められるが,平成27年12月25日の支払分(15万円)については,原告に催促されてこれを支払ったものであり,原告とCとの婚姻関係の破綻に際して重視することはできない,また,その後の支払については,いずれも少額(6万円と2万円)であり,これのみでは上記の婚姻関係の破綻の認定を左右することはできない。
   ウ そのため,原告とCとの婚姻関係は,平成27年12月28日には破綻していたと認められる。そして,これを前提とすると,同日以降の不貞行為について,被告が不法行為責任を負うとは認められない。もっとも,同月24日から同月28日までの間については,不貞行為による不法行為が成立し得ることから,被告が原告とCとの婚姻関係が破綻していると信じたことについて過失がないかさらに検討する。
  (3) 婚姻関係が破綻していたと信じたことの過失の有無
   ア 前記1認定のとおり,被告は,本件通知書受領後,その内容に関してCに問い質した際にCが,原告と離婚するには一番良いときだと決心したと記載したメールを送信し,その後,Cが原告と離婚すると述べていたと認められ,これを信じたと認められる。
 そして,前記1認定のとおり,被告とCが,平成27年10月31日から同棲生活を継続し,その間,原告との婚姻関係が存在することを窺わせるような行動をとっていると窺われないこと,本件通知書の受領から原告と被告との婚姻関係の破綻までの期間が数日間と短期間であることに照らせば,上記のとおり,原告とCとの婚姻関係が破綻していると信じたことについて過失がないと認められる。
   イ そのため,平成27年12月24日から同月28日までの被告とCとの不貞行為についても被告が不法行為責任を負うとは認められない。

 

【東京地判平成28年5月12日】

 2 判断
  (1) 認定事実によれば、Aは、平成24年2月ないし3月頃から、月に2、3回程度、朝帰りをするようになり、携帯電話にロックをかけたり、これを風呂場に持ち込むようになったところ、証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、過去に2度にわたって他の女性と交際した際にも、上記と同様に普段とは異なる行動を取ったことが認められることからすれば、Aは、平成24年2月ないし3月頃から、原告とは異なる女性と交際を開始したことがうかがわれるというべきである。
 もっとも、認定事実のとおり、被告は、平成26年5月下旬以降、Aと交際していたことは認められるが、Aが平成24年2月ないし3月頃から交際していた女性が被告であることの立証はされておらず、これをうかがわせる事情は見当たらないといわざるを得ない。
 したがって、被告とAが平成24年2月ないし3月頃から交際を開始したことを前提とする原告の主張は、失当というほかはない。
  (2) 原告は、a社の同僚から、Aが、被告のことを過去に交際していた女性に似ているからといって必要以上にかわいがっていたとか、2人で住むような家を探しているといった話を聞いた旨を供述している(原告本人)。しかし、前者については、Aが被告のことを特に気に入っていたことはうかがわれるものの、それを超えて被告とAが不貞関係にあったことを推認する事情とまではいえないし、後者についても、その時期は判然とせず、これをもって、上記不貞関係を推認する一事情とは評価できないといわざるを得ない。
 また、原告は、被告が、平成25年4月や平成26年1月に、a社社内のチャットを利用して、Aに対し、焼肉を食べに行きたいと誘うやり取りをしていることも(甲16、甲17)、上記不貞関係を推認する事情であると主張しているようであるが、上記チャットは、a社社内の公用のものであること、その文面は、基本的に敬体であり、上司と部下の通常のやり取りとみて矛盾しないことからすれば、原告の上記主張は、前提を欠くものであって、採用の限りではない。
 なお、証拠(甲12の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、Aは、平成26年8月頃、当時の代理人弁護士から、被告との不貞関係について問われたところ、これを認める旨の発言をしたことが認められるが、同月頃に被告がAと交際していたことは当事者間に争いがないことであることに加え、Aがいつの時点からの被告との交際を認めたのかなど、発言の詳細は不明であって、これをもって、被告とAが平成24年2月ないし3月頃から不貞関係にあったとは認められない。
  (3) 以上によれば、本件証拠関係のもとにおいては、被告とAとは、平成26年5月頃から交際を開始し、同年6月頃に肉体関係を持つに至ったと認定するほかはない。
 そして、認定事実によれば、原告は、平成25年4月24日、Aの母親に対し、Aに対する気持ちは既に冷めてしまっており、離婚を切り出されてもこれを止める気持ちがない旨をメールしていること、原告とAは、平成26年3月24日、別居を開始しており、同年4月には、離婚の時期等についてのやり取りをしていることからすれば、原告とAの婚姻関係は、遅くとも被告とAが交際を開始した平成26年5月の時点において、破綻していたと認めるのが相当である。

  (4) したがって、被告の不貞行為により原告・A間の婚姻関係が破綻したとの原告の主張は、理由がない。

 

【東京地判平成28年9月29日】

 (1) 前提事実及び認定事実によれば、被告は、平成26年12月、Aと再会し、旅行に行くなどしているところ、その際に、Aから、結婚をしたものの離婚した旨を言われたこと、平成27年2月、原告から自身がAの夫である旨を告げられたところ、Aに対し「Aの旦那を名乗る人」から電話があったと伝えており、原告がAの夫であると直ちに信じたとは認めがたいこと、同年6月9日に原告から指示を受けて「Aが結婚を続けていたことを知りませんでした」との内容を含む本件念書を作成したこと、その後にAからもう大丈夫になった旨を言われたため、Aと再び連絡を取り合うようになったことからすれば、被告が、平成26年12月にAと再会してから原告とAが離婚する平成28年1月5日までの間に、原告とAの婚姻関係が継続していることを認識しながら、Aと会食をしたり旅行に行っていたとは認めがたいというべきである。
 原告は、被告が原告・A間の婚姻関係を知らなかったことに過失があるとも主張するが、そもそも、被告について、より具体的に原告・A間の婚姻関係を調査すべき義務があったことを基礎付ける事実関係があるとはいえず、前記認定説示の事実経過に照らしても、被告に上記過失があるとは認められない。
  (2) 認定事実のとおり、Aは、原告と婚姻して約1年後である平成26年7月頃から、原告に対し、性格が合わない旨の不満を述べ始め、少なからず離婚の話もするようになり、同年12月、白紙の離婚届を交付し、平成27年2月28日には、離婚届への記入等もした上、その約5か月後である同年7月26日には、原告との同居を止めて別居を開始し、再度同居することなく、平成28年1月5日、原告と離婚している。
 この事実経過に照らせば、原告とAとの婚姻関係は、Aが原告に対し白紙の離婚届を交付した平成26年12月頃には、既に破綻していたものと推認されるのであって、このことからしても、被告が、原告とAが離婚する以前からAと旅行に行くなどして接触を続けていたことが、不法行為になるとはいえない。

このように、夫婦が別居した後に不貞行為があったとされる事案において、婚姻関係破綻の抗弁を認めた裁判例が存在することがわかります。

ただし、冒頭で書いたように、婚姻関係破綻の抗弁は簡単に認められるものではありませんので、その点は誤解のないようにしたいところです。

 

☆弁護士法人千里みなみ法律事務所では、多数の離婚案件を取り扱っており、多くのノウハウや実績がございます。

離婚のご相談をご希望の場合はお問い合わせフォームよりご予約ください。