【大阪の離婚弁護士が教える】無断で離婚届を出された場合の対処法
1.離婚届の偽造の場合
例えば、妻が夫に無断で離婚届の夫の署名欄に夫の名前を記入して、離婚届を役所に提出したとします
役所はその離婚届の署名が夫のものかを審査することはしませんから、形式が整っていれば離婚届は受理され、離婚は有効に成立したことになります。
では、離婚届が無断で出されていることを知った夫はどうすればいいのでしょうか。
夫婦の話し合いで離婚を無効にすることができるかというと、これはできません。
これは、離婚が無効か否かについては公益性が強く、当事者に処分権限が認められないためです。
夫が離婚を無効にするためには、まず離婚無効の調停を申し立てる必要があります。
妻が離婚届の偽造を認めた場合でも、それだけで調停は成立せず、家庭裁判所が必要な事実を調査し、家事調停委員の意見を聞いた上で、合意に相当する審判をします。
妻が離婚届の偽造を認めない場合には、当事者の合意が成立しないため、合意に相当する審判はなされません。
この場合、離婚無効調停は不成立となり、その後に夫は離婚無効確認の訴えを提起する必要があります。
訴訟の結果、離婚が無効となった場合には、判決には遡及効が認められますので、初めから離婚していなかったことになります。
これは前述した合意に相当する審判も同様です。
2.署名はしたが、親権者欄を書き換えて提出された場合
例えば、離婚届に互いに署名をし、この際、子の親権者は妻としていたところ、その後、夫がその離婚届の親権者欄を夫と書き換えて、離婚届を提出してしまった場合、妻は争うことができるのでしょうか。
実際にこのようなことが問題になった裁判例があるため、以下で紹介します。
【東京高判平成30年4月12日】
控訴人が妻、被控訴人が夫を指します。
(1) 本件届出時における控訴人の離婚意思の有無
ア 前記1の認定事実によれば,控訴人は,被控訴人との間で,被控訴人が平成27年12月末までに勤務先を退職しなければ離婚をするという話がされ,それを前提に,控訴人が本件離婚届を作成し,被控訴人に交付していたと解されるところ,被控訴人は,平成27年12月29日に離婚を前提としても勤務先を退職することはできないことを控訴人に告げ,控訴人は,それに対し,それは離婚ということであるかどうかを確認し,翌日には別居を開始し,平成28年1月3日,Cに対し,「昨年末より離婚を前提に別居生活を始めました。」と記載したメール(甲7)を送信しており,以上の事実を考慮すれば,控訴人は,平成28年1月当時,被控訴人と離婚をすることもやむを得ないと考え,離婚を前提に行動を起こしており,控訴人において被控訴人と離婚をする意思があったといえなくもない。
イ しかし,協議離婚をするに当たっては,未成年の子がいる場合,父母が協議をして,その一方を親権者と定めることが必要であり(民法819条1項),かつ,離婚届書に,親権者と定められる当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名を記載して,届け出る必要があるから(戸籍法76条1号),親権者の指定は,離婚とは可分な単なる付随的事項ということはできず,離婚と不可分の関係にあるというべきである。
これを本件についてみると,前記1の認定事実によれば,控訴人が,被控訴人に対し,長男の氏名を「妻が親権を行う子」欄に記入した本件離婚届を被控訴人に渡したところ,その後,被控訴人は,長男の親権者を被控訴人とする旨記載を変えて,本件離婚届を杉並区長宛てに提出したものであり,控訴人が,本件離婚届において,長男の親権者を被控訴人とする旨記載を変えることを承諾したとは認められない。
また,控訴人が,別居後,Cに対し,送信したメール(甲7)には,「親権を争う事になってしまい,その他もろもろもあるため調停になるかと思います。」との記載があり,これによれば,控訴人は,離婚に当たって,今後調停において,長男の親権が争われるとともに,その他の条件についても被控訴人との間で協議をすることを想定していることがうかがえ,本件離婚届によって被控訴人と離婚をするという確定な意思があったということはできず,ましてや,控訴人は,本件離婚届の「夫が親権を行う子」の欄に長男の氏名が記入されて,それが区役所に提出されることを想定していなかったものと推認することができる。
さらに,前記1の認定事実によれば,控訴人は,平成28年2月,被控訴人を相手方として,婚姻費用分担請求調停を申し立てているところ,これは,控訴人が本件離婚届によって,直ちに被控訴人と離婚をする意思はなく,相当期間,被控訴人との婚姻関係が継続することを前提としていたものと推認することができる。
そして,控訴人は,本件届出を知った日である平成28年4月6日から20日後の同月26日,被控訴人を相手方として,離婚無効確認調停及び子の監護者の指定・子の引渡調停を申し立てている。
加えて,控訴人は,陳述書(甲11(11頁))において,仮に,被控訴人と正式に離婚することになった場合,長男の親権者は控訴人とし,被控訴人に対する養育費の請求,夫婦の預貯金の分与,離婚慰謝料の取り決めを希望する予定であった旨陳述し,原審での本人尋問において,戸籍上離婚となったことが分かった瞬間の最大の関心事について,「子供のことです。面会もそうですし,親権もそうです。」と供述し(調書25頁),「協議をしていない離婚届というのは無効なんじゃないかと思って」,「きちんとまず話合いを,人として,きちんとしたいというのが私の気持ちです。」と供述する(調書27頁)。
なお,控訴人は,別居に当たり,被控訴人に長男の監護を委ねているが,以上の事情に照らせば,控訴人は,これをもって,長男の親権者を被控訴人とすることに承諾していたということはできない。
以上の事情を総合すれば,控訴人は,平成28年1月当時,被控訴人と離婚をすることもやむを得ないと考え,離婚を前提に行動を起こしており,控訴人において被控訴人と離婚をする意思があったといえなくもないが,本件離婚届の提出によって,長男の親権者を被控訴人と指定してまで離婚をするという意思があったとまでは認められない。
(2) 前記(1)によれば,控訴人は,長男の親権者を被控訴人と指定してまで離婚をするという意思があったということはできないから,本件届出に係る控訴人と被控訴人との協議離婚は無効であるといわざるを得ない。
以上のとおり、当該事案の事実関係の下では、妻には親権を夫と指定して離婚する意思があったとはいえないとして、夫が提出した離婚届は無効と判断されることになりました。
3.まとめ
以上の1・2いずれの場合であっても、意図に反して離婚届を出されてしまうと、その後に法的手続をとらなければならなくなるという手間がかかります
そこで、無断で離婚届を出されないようにするための方策について次回解説したいと思います。
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