【大阪の離婚弁護士が教える】共同親権・条文解説①~親権者指定の考慮要素とは?単独親権になるのはどのような場合?~
1.はじめに
法務省のサイトに、共同親権制度を含む改正民法の概要が公表されています。
そこで、令和6年12月時点の情報をもとに、改正民法のうち、共同親権に関する条文を紹介しつつ、その内容について解説をしてみたいと思います。
2.親の責務(人格尊重義務・協力義務)等
【改正民法817条の12】
1.父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2.父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
第2項では、父母は互いに人格を尊重し協力しなければならないとの義務が規定されています。
では、具体的にどのような場合にこの義務に違反したということになるのでしょうか。
この点について、国会の議事録を見ると政府参考人は、次のように回答しています。
父母双方が離婚後も適切な形で子の養育に関わり、その責任を果たすことが望ましく、養育費や親子交流を含めた子の養育に関する事項を取り決めることは、子の利益にとって重要であります。このため、父母の一方が養育費や親子交流など子の養育に関する事項についての協議を理由なく一方的に拒否する場合、個別具体的な事情によりましては、父母相互の人格尊重義務や協力義務に違反すると評価される場合があると考えております。
そして、あくまで一般論としてお答えをいたしますと、父母の一方が父母相互の人格尊重義務や協力義務等に違反した場合、親権者の指定、変更の審判等において、その違反の内容が考慮される可能性があると考えております。
(第213回国会衆議院法務委員会会議録第11号)
本改正案では、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、父母は子の人格を尊重してその子を養育しなければならないこと、父母は子の利益のため互いに人格を尊重し協力しなければならないことを明確化することとしております。
父母の協議や家庭裁判所の審判等によって親子交流についての定めがされたものの父母の一方がこれを履行しない場合、個別具体的な事情によりましては、父母相互の人格尊重義務や協力義務に違反すると評価される場合があると考えております。また、あくまで一般論としては、父母の一方が父母相互の人格尊重義務や協力義務等に違反した場合、個別具体的な事情によるものの、親権者の指定、変更の審判等において、その違反の内容が考慮され得ると考えております。
(第213回国会参議院法務委員会会議録第8号)
本改正案におきましては、子に関する権利の行使に関し、父母が互いに人格を尊重し協力しなければならないとしており、あくまで一般論としてお答えをいたしますと、父母の一方が何ら理由なく、すなわち急迫の事情もないのに他方に無断で子の居所を変更するなどの行為は、個別の事情によってはこの規定の趣旨にも反すると評価され得ると考えております。
そして、これもあくまで一般論としてお答えをいたしますと、父母の一方が父母相互の人格尊重義務や協力義務等に違反した場合、親権者の指定、変更の審判において、その違反の内容が考慮される可能性があると考えております。
(第213回国会参議院法務委員会会議録第12号)
以上を踏まえると、
①養育費や親子交流(面会交流)などの協議を理由なく拒否する場合
②親子交流についての定めがされたのに、これを履行しない場合
③何ら理由なく、急迫の事情もないのに他方に無断で子の居所を変更する場合
などには人格尊重義務・協力義務違反とされる可能性があり、しかもこの事情は親権者指定や親権者変更において考慮される可能性があるといえそうです。
3.親権の基本
【改正民法818条】
1.親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。
2.父母の婚姻中はその双方を親権者とする。
3.子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。
一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)
二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの
第1項で、親権は「子の利益」のために行使しなければならないと規定されています。
「子の利益」とは何なのかという点について、法務大臣は次のように説明しています。
何が子供にとって最善の利益であるかは、それぞれ、その子が置かれた状況によっても異なると考えられるため、一概にお答えすることは困難ですが、その子の人格が尊重され、その子の年齢及び発達の程度に配慮されて養育され、そして、心身の健全な発達が図られることが子の利益であると考えております。
(第213回国会衆議院本会議録録第11号)
また、「親権は、(中略)子の利益のために行使しなければならない」という表現にも注目すべきです。
現行民法では「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」と規定されていますが、上記のとおり改正されることで、親権が親の権利だけでなく義務でもあることをはっきりさせたといえます。
4.離婚時等の親権者の指定
【改正民法819条】
1.父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2.裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3.子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4.父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5.第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6.子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7.裁判所は、第2項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8.第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
離婚する際に、必ず共同親権にしなければならないのかという点については、第1項に「双方又は一方を親権者と定める」とあることから、単独親権とすることも認められていることが分かります。
当事者間の協議で、共同親権にするのか単独親権にするのか、単独親権にするとしてどちらが親権者になるのかといった点について合意に至らないときは、裁判所に決めてもらうことになります(第5項)。
この際、裁判所が何を考慮するかというと、①父母と子との関係(親子関係)、②父と母との関係(夫婦関係)その他一切の事情を考慮するとされています(第7項)。
さらに、必ず単独親権にしなければならないケースとしては、㋐父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき、㋑父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無等を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときが挙げられています(第7項1号・2号)。
この点に関して、政府参考人は次のように発言しています。
本改正案の民法第八百十九条第七項第一号に言う「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれ」や、第二号に言う「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれ」とは、具体的な状況に照らし、そのような害悪や暴力等を及ぼす可能性があることを意味しております。
このおそれにつきましては、裁判所において個別の事案ごとに、それを基礎づける方向の事実とそれを否定する方向の事実とが総合的に考慮されて判断されることとなると考えております。なお、当事者の一方がその立証責任を負担するというものではありません。
このおそれの認定につきましては、過去にDVや虐待があったことを裏づけるような客観的な証拠の有無に限らず、諸般の状況を考慮して判断することとなり、いずれにせよ、裁判所が必ず単独親権としなければならないケースはDVや虐待がある場合には限られません。
また、本改正案は、父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無のほか、父母間に協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難と認められるときにも、裁判所は必ず単独親権としなければならないこととしており、身体的なDVがある場合だけでなく、精神的DV、経済的DVがある場合や、父母が互いに話し合うことができない状態となり親権の共同行使が困難な場合も、事案によりましてはこの要件に当てはまることがあると考えられます。
他方で、本改正案では、高葛藤であることや合意が調わないことのみをもって一律に単独親権とされるものではありません。裁判所の調停手続においては、父母の葛藤を低下させるための取組も実施されていると承知しており、高葛藤であったり合意が調わない状態にあった父母であっても、調停手続の過程で感情的な対立が解消され、親権の共同行使をすることができる関係を築くことができるようになるケースもあり得ると想定されております。
(第213回国会衆議院法務委員会会議録第6号)
以上をまとめると、
・裁判所は、親子の関係や夫婦の関係など一切の事情を考慮して、共同親権にするか、単独親権にするか、単独親権にするとしてどちらを親権者とするかを決める。
・ただし、子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるときや、一方当事者が他方当事者に対する暴力等を受けるおそれがあり、共同親権とすることが困難と認められるときには、必ず単独親権にする。
ということになります。
以上、今回は共同親権に関する基本的な条文について説明を行いました。
次回以降では、さらに派生する内容についても見ていきたいと思います。
☆共同親権に関する疑問点まとめ
・今後離婚する人は全員共同親権になるのか?
・夫婦の協議で共同親権にするか、単独親権にするか決まらなかった場合はどうする?
・裁判所が共同親権にするか、単独親権にするかを判断する際にどういったことを考慮するか?
→こちらの記事を参照ください。
・裁判所が共同親権にするか、単独親権にするかを判断する際、原則はどちらにするのか?
→こちらの記事を参照ください。
・夫婦(父母)が別居している事案において、裁判所が共同親権と判断するのはどういった場合か?
→こちらの記事を参照ください。
・共同親権とした場合、子どもはどちらの親と暮らすことになるのか?
・子どもと一緒に暮らす親にはどのような権限が与えられるのか?
→こちらの記事を参照ください。
・共同親権であっても単独で親権を行使できるのはどのような場面か?
・共同で親権を行使しなければならない事項について意見が対立したときはどうするのか?
・共同親権と監護権の関係性とは?
→こちらの記事を参照ください。
・現行制度と同様、親権者が決まるまで離婚することはできないのか?
→こちらの記事を参照ください。
・すでに離婚している人は共同親権とすることができるのか?
・すでに離婚している人が共同親権となるのはどのような場合か?
→こちらの記事を参照ください。
・共同親権とした場合、子どもの姓はどうやって決めるのか?
→こちらの記事を参照ください。
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