【大阪の離婚弁護士が教える】違法な子の連れ去りと判断した事例
離婚前に一方親が子を自らの側に連れて行くケースがありますが、必ずしもすべての事案において違法な連れ去りと評価されるわけではありません。
今回は、そのような中で、父親による子の奪取行為を違法と評価した事例を紹介したいと思います。
【東京高裁平成17年6月28日】
(6) 抗告人は、実家に帰ってから主に抗告人の実母の協力の下に事件本人を実家近くの幼稚園に入園させ、バス通園をさせる一方、実家から勤務先会社に通勤しており、平穏な生活を営んでいた。ところが、平成16年12月20日朝、事件本人は、抗告人の実母と共に通園バスを待っていたところ、相手方が両親と共に自動車で待ち伏せをし、事件本人を相手方が強引に抱きかかえて、同車に乗せ奪取した。この事件本人の奪取という相手方の行動は、前記のとおり、調停、審判での解決を求めて申立てをし、調停委員会等から自力救済を禁止するように指導を受けている状況の下で行われたものである。相手方は、それ以降、相手方の自宅で、その両親の協力の下に事件本人を監護養育し、地元の保育園に通園させた後、平成17年4月5日に地元の□□小学校に入学させた。事件本人は、現在同小学校に通学している。相手方は、前記事件本人の奪取後、自ら申し立てた審判前の保全処分の申立てを取り下げた。
(中略)
2 以上認定の事実に基づき、本件各申立ての当否について検討する。
事件本人の監護者を抗告人と定めるかそれとも相手方と定めるかについては、いずれに指定するのが事件本人の福祉により適合するかどうかという観点から決定されるべきである。
そこで、この観点に立って本件について検討するに、事件本人は現在7歳とまだ幼少の年齢であり、出生以来主に実母である抗告人によって監護養育されてきたものであって、本件別居により抗告人の実家に移ったが、相手方らによる事件本人の本件奪取時までの抗告人側の事件本人に対する監護養育状況に特に問題があったことをうかがわせる証拠はない(原審判は、抗告人が職業を有しているから、その勤務の都合上、日常的に事件本人に対し母性を発揮できる状況にないと判示しているが、何ら合理的根拠を有するものではない。また、原審判は、抗告人が審問の際、「事件本人が生まれたのは、脅されて関係を持ったからです。」と供述していることを挙げて、抗告人が果たして事件本人に対し母性を発揮することができるか疑わしいと判示しているが、これは相手方に対する思いから出た発言にすぎないとみられ、抗告人が事件本人に対し不当な扱いをしたり、監護養育を軽視している等同人の福祉を害する行為をしているとの事実をうかがわせる証拠はまったくないから、かかる判示も合理的根拠を欠くものといわざるを得ない。)。また、抗告人による本件別居を明らかに不当とするまでの事情は見当たらないから、事件本人の年齢やそれまでの監護状況に照らせば、抗告人が別居とともに事件本人を同行することはやむを得ないものであり、これを違法又は不当とする合理的根拠はないといわざるを得ない。そうすると、このような経緯で事件本人の監護養育状況が抗告人側にゆだねられることになったことが事件本人の福祉を害するということはできない。ところが、その後にされた相手方及び同人の実父母による事件本人の実力による奪取行為は、調停委員等からの事前の警告に反して周到な計画の下に行われた極めて違法性の高い行為であるといわざるを得ず、この実行行為により事件本人に強い衝撃を与え、同人の心に傷をもたらしたものであることは推認するに難くない。相手方は、前記奪取行為に出た理由について、抗告人が事件本人との面会を求める相手方の申し出を拒否し続け、面会を実現する見込みの立たない状況の下でいわば自力救済的に行われた旨を主張しているものと解せられるが、前記奪取行為がされた時点においては、相手方から抗告人との夫婦関係の調整を求める調停が申し立てられていたのみならず、事件本人の監護者を相手方に定める審判の申立て及び審判前の保全処分の申立てがされており、これらの事件についての調停が続けられていたのであるから、その中で相手方と事件本人との面接交渉についての話合いや検討が可能であり、それを待たずに強引に事件本人に衝撃を与える態様で同人を奪取する行為に出たことには何らの正当性も見い出すことはできない(原審判は、前記奪取行為が違法であることを認めながら、子の福祉を判断する上で必要な諸事情の中の一要素として考慮すべきであると判示するが、それまでの抗告人による監護養育状況に特段の問題が見当たらない状況の下で、これを違法に変更する前記奪取行為がされた場合は、この事実を重視すべきは当然のことであり、諸事情の中の単なる一要素とみるのは相当ではない。)。そうすると、このような状況の下で事件本人の監護者を相手方と定めることは、前記明らかな違法行為をあたかも追認することになるのであるから、そのようなことが許される場合は、特にそれをしなければ事件本人の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合(たとえば、抗告人に事件本人の監護をゆだねたときには、同人を虐待するがい然性が高いとか、抗告人が事件本人の監護養育を放棄する事態が容易に想定される場合であるとか、抗告人の監護養育環境が相手方のそれと比較して著しく劣悪であるような場合)に限られるというべきである。しかるに、本件においては、このような特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、事件本人の監護者は抗告人と定めるのが相当であり、したがって、その監護者を相手方と定める申立ては理由がない。しかるに、甲事件について事件本人の監護者を相手方と定め、乙事件について事件本人の監護者を抗告人と定める抗告人の本件申立てを却下した原審判は不当であり、取消しを免れない。
この裁判例は、上記のような判断に基づき、父親による奪取行為を違法とした上で、母親を監護者と指定しました。
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