【大阪の離婚弁護士が教える】親権・監護権が子ども(幼児)の意向だけでは決まらない場合
裁判所が、親権者や監護権者を決めるに当たって、子どもの意向は考慮要素の一つとなります。
しかし、子どもの意向だけで決まるかというと、必ずしもそういうわけではありません。
とりわけ子どもが幼児の場合には、「ママがいい」とか「パパがいい」といった発言のみで、親権者・監護権者が決められるということは通常ありません。
今回ご紹介する裁判例は、父親が母親に無断で子ども(5歳)を連れ出したという事案において、子どもが母親に対する激しい拒否的態度を示したことが問題となったものです。
一審は、父親を監護者に指定しましたが、二審(東京高裁)は原審を取り消して差し戻すという判断を下しました。
【東京高決平成11年9月20日】
3 しかしながら、原審の資料によっては、原審判のように、抗告人と相手方との監護者としての適格性や養育環境について優劣付け難いと判断するのは相当ではなく、また、裁判所で行われた1回の面接においてAが抗告人に対して示した拒否的な態度から、直ちに、上記のような判断をした点についても、その当否に疑問があり、更に審理を尽くすのが相当であると考える。その理由は次のとおりである。
(1) まず、Aの監護状況についてみるに、相手方が抗告人に無断でAを連れ出すまでは、Aと同居していたのは抗告人や抗告人の実母であるから、近隣に住んでいたとはいえ、相手方の実母とAとの接触時間よりも抗告人や抗告人の実母との接触時間が圧倒的に長かったと推測される。相手方は、Aと遊んだり共に就寝したりすることはあっても、日常生活上基本的な監護養育に当たったことはほとんどなく、仕事の都合を理由に人身保護手続に一度も出頭しなかったことを考えても、同じ有職者ではあっても、抗告人の方がAとの接触時間を長くとることができるとみるのが相当である。また、Aは、その年齢等からすれば、まだ母親によるきめ細かな配慮に基づく監護が必要な生育段階にあると考えられるし、妹Bと分断して養育されることによって生じ得る心身発達上の影響についても慎重な配慮をする必要がある。さらに、相手方は、抗告人の下からAを無断で連れ出し、家庭裁判所や高等裁判所の保全処分の決定にも従わず、地方裁判所の人身保護手続にも全く出頭しなかったのであり、そうこうしているうちに、Aは次第に相手方らとの生活に安定を見いだすようになったという側面があることは否定できないのであって、その現状が安定しているからといって、安易に現状を追認することは相当ではない。
そうすると、抗告人と相手方との監護権者としての適格性や養育環境については優劣付け難いとした原審の判断は、直ちにこれを相当として是認することはできず、上記の点につき更に審理を尽くさせる必要がある。
(2) 次に、原審における面接調査の際Aが抗告人に対し示した拒否的な態度は、これ以上両親の不和に巻き込まれて不安定な状態になりたくないので、ともかく現状の変更は望まないという気持ちの表われとして了解することができ、その意味では、表現が適切であるかどうかは別として、原審の判断も肯認できなくない。しかし、Aを相手方と引き離すことが、Aにさらなる精神的な外傷を与えるという点については、その可能性が全くないとはいえないとしても、これを判断するには、Aと抗告人との関係についての資料が不足しているというべきであり、記録にあらわれた資料をもってしては、原審のいうように、Aを相手方から引き離すことはAにさらなる精神的な外傷を与えこそすれ決してAの福祉を回復するものではないとまで判断することは、相当ではないというべきである。確かに、面接調査時におけるAの抗告人に対する拒否的な態度は驚くほど強いものであるが、現在の監護者である相手方らからの影響が全くないとはいいきれないし、5、6歳の子どもの場合、周囲の影響を受けやすく、空想と現実とが混同される場合も多いので、たとえ一方の親に対する親疎の感情や意向を明確にしたとしても、それを直ちに子の意向として採用し、あるいは重視することは相当ではない。したがって、Aが面接の際に示した態度が何に起因するものであるかを慎重に考慮する必要があり、いまだ6歳のAが一度の面接調査時に示した態度を主たる根拠として監護者の適否を決めてしまうことには疑問があるから、原審としては、これまでのAと抗告人との関係を改めて調査するなどして、面接調査においてAが示した拒否的態度のよってきたる原因を深く考察するとともに、姉妹を分断することの問題点や、Aの年齢や発達段階を考慮したときにそのニーズを最もよく満たすことができるのは誰であるか、面接交渉の確保の問題など、多角的な観点から検討することが必要であったと考えられる。ちなみに、記録によると、上記面接調査終了後、原審が当事者双方の意見を聴取したところ、相手方が相互交流の機会を持つことに前向きであったのに、抗告人は、相手方に対する不信感を強調して、面接調査の継続に反対し、審理の打切りを求めたことが窺われるのであるが、抗告人に対しては、Aの母親としてAの将来の福祉を図る観点から、冷静な態度に立ち戻り、差戻後の原審の審理に協力する姿勢が望まれるところである。
4 以上のとおりであるから、改めてAの監護者として抗告人と相手方のどちらが適当であるか、Aをいかなる監護環境の下に置くことがAの福祉にかなうかについて、更に審理を尽くさせるため、原審判を取り消し、本件を浦和家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
この裁判例が示すように、特に子どもが幼年の場合には、その発言のみをもって、必ずしも親権者・監護権者が決せられるわけではないという点に注意が必要です。
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