【大阪の離婚弁護士が教える】肉体関係がなくても慰謝料請求はできるか?
1.はじめに
例えば、夫が妻以外の女性と肉体関係を持った場合、原則として、妻は、夫や夫の不貞相手に対して慰謝料請求を行うことが可能です。
では、肉体関係を持つまでには至らなかった場合(肉体関係があったことまでは立証できなかった場合)には、慰謝料は認められるのでしょうか。
今回はこの点に関する裁判例をいくつか見てみたいと思います。
2.慰謝料を認めた事例
【東京地判平成24年11月28日】
(1) 原告が争点(1)で主張する事情①(本件報告書に記載された行動)は,それ自体では,直ちに原告らの婚姻生活の平穏を害するものとまではいえないし,同②(被告が原告ら自宅に招かれていたこと)については,そのような事実自体を明確に認定できないことは,上記1のとおりである。
しかし,上記1(3)ア(ア)ないし(テ)のような表現を含むメールを送ることについては,このようなメールは,性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの,被告がAに好意を抱いており,原告が知らないまま被告とAが会っていることを示唆するばかりか,被告とAが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり,これを原告が読んだ場合,原告らの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。
そして,これらのメールは,AのIDとパスワードを知っていればヤフーのブラウザで閲覧できるものであるところ(証人A),Aの妻である原告が上記ID等を知っていることは想定できるのであり,現に原告はこれを閲覧しており,被告としては,これが原告に読まれる可能性がある状況下で,このようなメールを送付したものと認められる。
そうすると,被告がこれらのメールを送付したことは,原告らの婚姻生活の平穏を害するものとして社会的相当性を欠いた違法な行為であり,被告は,原告に対し,不法行為責任を負うものというべきである。
(2) これに対し,被告は,メール中にある「ギュウ」という表現は,Aが手かざしで痛みを和らげる能力があると言っており,その手当てのことをいうものであり,上記1(3)ア(ソ),(タ)のような表現(甲4の15,同16)なども,生理中に手当てをしてもらうのは嫌だということを述べたものにすぎないと供述する(被告本人)。しかし,これらのメールの文面をみても,手かざしないし手当ての効果等についての記載は全くなく,かえって,他のメールには「HはA」などAが性的な関心を持っていることを示す記載があるのであって,被告の上記供述は採用することができない。
3 争点(3)(損害)について
(1) 被告がAに送付したメールの内容その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告の上記不法行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は,30万円とするのが相当である。
(2) 被告は,本件調停において解決金の支払債務が認められ,慰謝料300万円が支払済みであることが認められたのであるから,原告の被告に対する慰謝料請求を認めることはできない旨主張する。
しかし,上記で認定した損害は,被告がAに宛ててメールを送付した行為によって原告が被った損害であるところ,本件調停で認められた慰謝料債務は婚姻関係を破綻させたAの行為についてのものであり,解決金債務もAが原告に対し婚姻生活に起因して負った債務の清算という趣旨のものであるから,Aがこれらの債務を支払ったこと又は債務を認めたことにより,当然に原告の損害が填補されるなどして,被告の債務が消滅するという関係にはない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
➣愛情表現を含むメールを送信したことから、性交渉の存在は推認されないものの、婚姻生活の平穏を害するとして、慰謝料30万円を認めた。
【東京地判平成29年9月26日】
1 判断基準
原告は,不法行為法上の違法を基礎付ける不貞行為は,性交渉及び同類似行為に限られず,配偶者を有する通常人を基準として,同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も含まれる旨主張するが,不貞行為とは,通常,性交渉又はこれに類似する行為を指し,原告主張の異性との交流,接触が不貞行為に該当するということはできず,採用できない。原告の主張は,不貞行為に該当しないとしても,上記婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も不法行為に該当すると主張する趣旨を含むものと思料されるところ,判断基準として抽象的に過ぎ,そのまま採用することはできないが,不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると,原告主張の具体的事実について,その行為の態様,内容,経緯等に照らし,不貞行為に準ずるものとして,それ自体,社会的に許容される範囲を逸脱し,上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から,不法行為の成否を判断するのが相当である。
2 被告Y1の不法行為の成否について
(1) 被告Y1が,Aとの間で,平成27年2月26日から翌日にかけて,LINEで別紙記載の内容を含むやり取りをしたことは争いがなく,その前後の部分(甲2の1)も併せてみると,やり取り①は,その内容からして,被告Y1とAが,従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるものであり,やり取り②は,前日のやり取り①も踏まえると,被告Y1が,Aに対し,性交渉を求めるものであると認められる。
そして,上記のように,従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは,不貞行為には該当しないものの,その記載内容にも照らすと,これに準ずるものとして,社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから,被告Y1の上記行為は,原告に対する不法行為を構成すると認められる。
(2) この点,被告Y1は,やり取り①及び②は,Aと原告の婚姻前にAと性的関係を有していたことを踏まえた上で,冗談としてしたものであり,その内容をAに確認すれば,その旨が分かるから,婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるとはいえず,不法行為に該当しない旨主張する。
しかし,被告Y1の真意はさておき,やり取り①及び②の内容は,上記のとおり,Aに対して性交渉を求めるものであるといえ,LINEのやり取りは,他の者が見ることを想定していないのが通常であるものの,夫婦間において,他方のLINEを目にすることもまれではなく,やり取り①及び②を目にした原告としては,Aと被告Y1が,性的関係を有したことがあり,そのことを前提として,性交渉を求めてやり取りをしていると理解するのが通常であると認められる。そして,その記載内容に照らすと,被告Y1との関係をAに問い質し,真意の確認を求めること自体,Aとの信頼関係に影響し,夫婦関係を悪化させるものであることは容易に推察することができるから,Aに確認をすることにより,冗談であるとの回答が得られたとしても,これにより上記不法行為の成否を左右するものとはいえず,被告Y1の上記主張を採用することはできない。
3 被告Y2の不法行為の成否について
(1) 原告は,Aが,平成27年11月末頃に所属隊内の飲み会に出席して帰宅しなかった後頃に,被告Y2がA宛てにLINEで「俺エロいから」との文章を送った旨主張し,これに沿う供述等をする(甲15,原告本人23,24頁)。
しかし,同供述等について,裏付けを欠く上,同文章より前の部分が消去されており,原告が,Aに確認すると,Aが消去したことは認めたものの,何でもないと言っていたので,そう思ってLINEの画像を撮影しなかった(甲15,原告本人24頁)というのであり,原告が,被告Y2とAが原告の目をはばかる関係にあると思った(甲15)というのは,原告の推測の域を出るものではない。そうすると,被告Y2が,上記のような文章を送ったとして,前記1の判断基準に照らし,不貞行為に準ずるものとして,それ自体,社会的に許容される範囲を逸脱し,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものとは認められないから,被告Y2に不法行為が成立するとは認められない。
(2) 次に,被告Y2が平成28年2月14日にAと2人で会ったことは当事者間に争いがなく,また,証拠(甲3の1,13~15)によれば,被告Y2は,同年3月2日,AにLINEを送り,これを無断で見て知った原告が,Aに,そのやり取りをスクリーンショットで原告に送るよう指示したところ,Aは,被告Y2の「そういう事ね!今日旦那さんから話されたんだ!んで,俺は,絶対なんもしてないって言ったからさ,それで通してもらいたいんだけどさ?」,「んで,俺がしつこくライン送って,飲み行こうとか言うのは,相談とかもされたりしてたから飲んで話聞こうかなっていう感じでしつこくラインしたって事になってるからそれで大丈夫??」との部分,Aの「このライン旦那から見られますよ!」,「何もしてないのでそぉ言ってもらわないと,困ります。」との部分を削除して,原告にスクリーンショットを送ったことが認められる。
原告は,被告Y2の上記行為について,恋愛感情に基づいて会い又は逢瀬への誘いをしたものであり,Aの貞操義務違反を推認させ,原告との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある交流といえ,不法行為に該当する旨主張する。
しかし,被告Y2の行為は,上記認定の限度にとどまるものであり,Aが,被告Y2とのLINEのやり取りの一部を消去して原告に見せたことをもって,恋愛感情に基づくものであり,Aの貞操義務違反を推認させるものであるということはできない。原告がその様に考えたことは,推測の域を出るものではなく,被告Y2の行為が,前記1の判断基準に照らし,不貞行為に準ずるものとして,それ自体,社会的に許容される範囲を逸脱し,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものとは認められないから,被告Y2に不法行為が成立するとは認められない。
4 被告Y3の不法行為の成否について
被告Y3が,平成28年2月25日,Aとの間で,前記2(3)アのとおり,LINEのやり取りをしたことは争いがない。
原告は,被告Y3の上記行為について,Aと恋愛感情で結ばれていることを如実に示すものであり,Aの貞操義務違反を推認させ,原告との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある交流といえ,不法行為に該当する旨主張する。
しかし,被告Y3の行為は,上記認定の限度にとどまるものであり,これにより,Aと恋愛感情で結ばれていることを如実に示すものであり,Aの貞操義務違反を推認させるものであるということはできない。原告がその様に考えたことは,推測の域を出るものではなく,被告Y3の行為が,前記1の判断基準に照らし,不貞行為に準ずるものとして,それ自体,社会的に許容される範囲を逸脱し,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものとは認められないから,被告Y3に不法行為が成立するとは認められない。5 損害について
前記2のとおり,被告Y1がAとの間でやり取り①及び②をしたことは,原告に対する不法行為に該当し,次のとおり,原告は,同不法行為により,33万円の損害を受けたと認められる。
(1) 慰謝料
前記2で説示したとおり,被告Y1の不法行為は,従前,Aと性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求める内容のLINEを送信するものであり,その記載内容に照らし,これを目にした原告が多大な精神的苦痛を受けたと推察されること,もっとも,その態様は,不貞行為そのものではなく,LINEのやり取りという夫婦間においても一定の秘匿性があり,原告が目にすることを想定していないものであったこと,同不法行為後の事情として,原告とAは,平成28年3月18日頃に別居し,Aが離婚調停を申し立て,係争中である(甲15,弁論の全趣旨)ところ,前記説示の経過に照らし,被告Y1の不法行為も,その一因となったことが窺われる一方で,原告において,Aに無断で,そのLINEを監視するなどし,被告Y2や被告Y3との関係を疑ったことも,Aが上記申立てをした原因となったことが窺われること(乙1),そのほか本件に現れた諸般の事情を総合考慮して,被告Y1の不法行為に対する慰謝料額としては,30万円をもって相当と認める。
➣夫が妻とLINEでやり取りをした3名の男性に対して慰謝料請求した事案において、うち1名についてのみ、性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求める内容のメッセージを送ったことをもって、不法行為の成立を認め、慰謝料30万円の支払いを命じた。
3.慰謝料を認めなかった事例
【東京地判平成25年3月15日】
1 主たる争点(1)(不貞の有無)について
(1) 証拠(甲3,4,乙2,原告)及び弁論の全趣旨によれば,被告(名古屋在住)とA(東京在住)は,a小学校の同級生であったこと,Aは,平成23年(以下,同年の記載は省略する。)8月20日,同小学校の同期会に出席するため名古屋に赴き,被告と共に同期会及び二次会に出席し,同日夜の新幹線で東京に戻ったこと,被告とAは,その前後頃から10月下旬頃までの間,頻繁にメールのやり取りを行ったこと,原告は,8月下旬頃から,Aが携帯電話を肌身離さず持ち,着信をしきりに気にし,着信に直ちに返信しているのを不審に思い,その後,Aの携帯電話の記録を見たところ,被告とのメールのやり取りを発見し,Aが被告と不貞をはたらいていると確信したことがそれぞれ認められる。
(2) 原告は,①被告とAは,別紙記載のとおり,性交渉を強く示唆する内容のメールを頻繁にやり取りし,「愛してる」,「大好き」等の,親密な男女間でしかあり得ない愛情表現も頻繁に交わしていること(甲3,4),②被告が,Aに対し,被告からのメールや手紙を廃棄するよう指示しており(甲3・6頁〔8月22日〕,13頁〔9月2日〕),Aが,9月から1か月半ほどの送信メールを削除していること,③被告とAは,双方の家族の不在時を見計らい,電話でも頻繁に会話していること(甲3,4)から,被告がAと不貞をはたらいたことは明らかである旨主張する。
しかしながら,メールは往々にして過激な表現になりがちなものであり,また,被告とAは,小学校の同級生であるという気安さから,気晴らしに際どい内容を含むメールや電話のやり取りを楽しんでいたとも考えられ,別紙記載のとおり,被告とAとの間で交わされたメールに性交又は性交類似行為を示唆するような表現が多数あるからといって,被告とAが実際にこれらの行為に及んでいたと断定することは躊躇される。
また,実際に性交又は性交類似行為に及んでいないとしても,異性との間でこれらを示唆するようなメールのやり取りをしていることを,相手の配偶者に知られたくないと考えるのは自然であり,被告がAに対し,これらのメールや手紙を廃棄するよう指示し,Aが送信メールを削除したからといって,直ちに性交又は性交類似行為の存在が推認できるわけでもない。
さらに,被告とAは,名古屋と東京という遠隔地に居住しており,双方の家族に知られないように密会することは困難であると考えられる上,被告とAとのメールのやり取り(甲3,4)を子細に検討しても,被告とAが密会した事実をうかがわせるような記載は見当たらず,Aが被告との不貞行為を自認したような事情もうかがわれない。
以上によれば,原告が指摘する上記①ないし③の点をもってしても,被告とAが,実際に不貞,すなわち性交又は性交類似行為に及んでいたとまでは未だ認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2 主たる争点(2)(メールのやり取りによる不法行為の成否)について
原告は,仮に被告とAが不貞行為に及んでいないとしても,被告は,原告の妻であるAとの間で,常軌を逸した卑猥な内容や,恋人同士でしかあり得ないような内容のメールのやり取りを頻繁かつ継続して行い,これにより,原告とAとの婚姻生活を破綻に導いた旨主張する。
確かに,性交又は性交類似行為には至らないが,婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある他の異性との交流・接触も,当該異性の配偶者の損害賠償請求権を発生させる余地がないとはいえない。
しかしながら,私的なメールのやり取りは,たとえ配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しないものであり,配偶者との間で性的な内容を含む親密なメールのやり取りをしていたことそれ自体を理由とする相手方に対する損害賠償請求は,配偶者や相手方のプライバシーを暴くものであるというべきである。また,被告がAに送信したメールの内容(甲3)に照らしても,被告が,原告とAとの婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたとはいえない。したがって,本件の事実関係の下での被告の行為は,原告の損害賠償請求を正当化するような違法性を有するものではないとみることが相当であり,不法行為の成立を認めることはできない。
➣「愛してる」などの愛情表現を含むメールの送信があったとしても、婚姻生活を破綻に導くことをことさらに意図していたとはいえないなどとして、不法行為が成立するものではないとした。
【東京地判平成28年11月30日】
1 事実経過
前提事実,証拠(甲1,8,乙1,原告本人,被告本人。その余の証拠は認定事実の後に証拠番号を掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(1) 被告は,Aとは同じ職場(a株式会社)で働いていたところ,平成25年夏頃職場の飲み会で知り合い,同人には夫や子がいることを知りながら,連絡先を交換して平成26年秋頃から原告には知られないようにして2人で会うようになり,お互いディズニーが好きであるということで趣味が合ったこともあり,主に土曜日の午前9時頃に会って散歩をしたり,プラネタリウムや水族館に行ったりし,午後6時頃別れるといたデートを重ねた。被告とAは,その際にキスしたことが4,5回あった。
(2) 被告は,父親と2人で間取りがいわゆる2DKの住居に暮らしているが,4,5回目のデートの際にAを自宅に誘い,父親のいない間に自分の部屋で過ごしたことが1度あった。(中略)
3 争点(2)(不貞行為の有無)について
(1) 原告は,被告はAと不貞行為を行ったのであり,被告が原告代理人との話合いの場において,Aとの不倫関係及び不貞行為に対する謝罪をし,Aが既婚者であると知りながら不倫・不貞関係を続けていたことを自認した上,その不倫関係及び不貞行為に対する慰謝料として200万円を支払う意思を表わしていることから明らかであると主張し,Aから被告の家に行ったことがあり,そこで性行為をしたと聞いた旨供述する。
(2) しかしながら,原告の上記供述はAからの伝聞である上,被告はこれを否認し,Aを被告宅に招いたことはあるものの,一緒にディズニーのDVDを見ただけであり性行為はしていない,Aに対して性行為を求めたことはあるもののAに断られたので性行為には至らなかった旨供述しているところであり,これらの事実に照らすと,原告の上記供述は裏付けを欠いているため採用することはできない。また,事実経過によれば,被告は,本件文書1及び同2についても,原告代理人事務所の事務員Bに指示されて作成したもので,その内容も不倫関係を前提にしているが必ずしも不貞行為を行ったことを前提としているとまでは認められない。そして,他に被告がAと不貞行為に及んだことを認めるに足りる証拠はないから,被告がAと不貞行為を行ったものと認めることはできない。
4 争点(3)(婚姻関係の破壊の有無)について
(1) 原告は,被告は,Aとの婚姻を希望して交際を行っており,その行為が原因で原告とAの夫婦関係に亀裂が生じ離婚に至ったことに鑑みれば不法行為が成立し,原告の慰謝料は,この不法行為と因果関係がある損害として認められるべきであると主張し,Aは被告と結婚したい旨,また被告もAと結婚したいと述べている旨Aから聞いていたと供述する。
(2) しかしながら,前提事実及び事実経過によれば,被告は,原告代理人側から連絡を受けた後はAとの交際をやめ,原告代理人側に対して本件文書1を送付して謝罪をしたことが認められる。そして,被告は,Aと結婚することを望んでおらず,結婚する意思のないことをAに伝えており,Aはそれを了承していたこと,Aからは原告との関係について,被告との交際のことを知られてから肉体関係を持っていないのに持ったのではないかとしつこく聞かれることがあり,すごく嫌になって一緒にいたくないという話を聞いていたこと,Aとは現在も同じ職場にいるものの同人からもう会わないようにしようと言われた旨供述しているところ,上記供述内容は,事実経過のとおり,Aが原告に対して被告との関係を話してから離婚まで1年以上が経過していることや,事実経過(8)に認定の離婚の際の合意内容(原告の主張によれば,被告とは共同不法行為者となるはずのAの責任を問うような内容になっていない。)に沿うものであることが認められ,信用できるものというべきである。
そうすると,被告がAとの結婚を望んで交際したため原告とAが離婚に至ったとする原告の主張は,上記被告の供述内容に反していて採用することはできないのであり,原告とAの離婚は,Aと被告との交際の発覚が影響していることは否定できないものの,Aが,被告との交際を知った原告の対応に嫌気がさして婚姻の解消を望んだことが主要な原因となっている可能性を否定できないため,被告とAの交際と原告とAの離婚の間に相当因果関係を認めることはできない。
(3) そうすると,被告がAと事実経過に認定のような交際をしたことについては,原告の婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益を脅かすものといえなくはないが,前記認定の交際の内容や頻度,被告の反省や謝罪の態度などを考慮すると社会的相当性を逸脱したものとまではいえず,これをもって違法であるとまではいえないため,不法行為は成立しないというべきである。
したがって,原告の被告に対する不法行為に基づく請求は理由がないことに帰する。
➣デートをしたことやキスしたことは認定したものの、社会的相当性を逸脱したものとまではいえず、不法行為は成立しないとした。
4.まとめ
以上の裁判例を見ると、愛情表現を伴うようなメール等のやり取りがあったとしても、直ちに慰謝料請求が認められるわけではないということがいえます。
また、仮に慰謝料が認められたとしても、認容額は相当低額になることが予想されます。
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