【大阪の離婚弁護士が教える】直接的な面会交流が禁止された裁判例の紹介
前回の記事では、月2回の面会交流が認められた近時の裁判例をご紹介しました。
今回は、反対に別居親と子供が直接会う形の面会交流が禁止された近時の裁判例を紹介したいと思います。
【さいたま家熊谷支審令和5年3月29日】
面会交流を実施すべきか否かについては,非監護親と子との関係,子の心身の状況,子の意向及び心情,監護親と非監護親との関係その他の子をめぐる一切の事情を考慮した上で,子の利益を最も優先して判断すべきである(民法766条1項参照)。
申立人は,直接交流又はオンラインの通信手段を利用した間接交流を希望しているところ,未成年者の年齢や面会交流の実施に当たり監護補助者である母方祖父の援助を受けることが困難である状況等を考慮すると,これらの面会交流を実施するには,未成年者を現に養育している相手方の関与が不可欠である。
しかしながら,主たる監護者である相手方の意思に反して軽率に行われた申立人による本件連れ去り行為のみならず,本件連れ去り直後の父方祖父の相手方に対する暴言,その後の強制執行の場面での相手方や未成年者に対する父方祖父の苛烈な言動やそれに対する申立人の対応等もあり,相手方は,申立人やその親族に対して強い不信感を抱いている上,継続的な通院自体はしていないものの,現時点で医師により適応障害との診断を受けており,申立人に関して話題が及ぶと過呼吸や動悸等の症状が認められること(家庭裁判所調査官による調査の場面においても,相手方は申立人や面会交流の話題になる都度,指先が小刻みに震え,頬が紅潮し,涙を流してしゃくり上げ,感情統制が難しい様子が見られている。)等に照らせば,現段階において,申立人と未成年者との直接の面会交流やオンラインの通信手段を利用した間接交流を実施した場合には,相手方の心身の不調等によって,未成年者の監護に支障が生じ,監護の質が低下するおそれも相当程度認められる(直接交流のみならず,オンラインの通信手段を利用した間接交流についても,日程等の調整のみならず,未成年者の体調不良等の事情から面会交流の実施が困難な場合の状況の説明といったように,申立人との間で場面場面に応じた即応性のあるやりとりを求められることなり,相手方にとっての心理的な負担感は直接交流と大きな違いはないと考えられる。なお,前記1(4)で認定したメモ等の存在からは,本件連れ去りに先立ち相手方も未成年者を連れて別居することを計画していたことは認められるが,時期を含めて具体的な内容までが確定していたとは認められない上,同居中の相手方による未成年者の監護状況に特段の問題が認められない以上,相手方との協議等を経ることなく,未成年者を連れ去った申立人による本件連れ去り行為が正当化されるわけではない。)。そして,未成年者については,父母の紛争の経緯等に関して細かな記憶はないにせよ,本件連れ去りを契機とした一連の騒動の中で強い不安感や心理的な負担感を感じてきたものと認められ(未成年者については,令和2年10月7日付け及び同年12月7日付けで保育園への通園に対する恐れ等を理由として強迫症性不安障害との診断がされているが,同居中のみならず未成年者が相手方の監護下に置かれた後も保育園に問題なく通院しており,未成年者が心身に不安定な様子はうかがわれないことに照らせば,本件連れ去りによる心理的影響も大きかったものとうかがわれる。),家庭裁判所調査官との面接時の未成年者の言動等を踏まえれば,申立人と会うことで広島に連れ戻されることに関して不安を感じているように,現時点でも申立人との面会交流に関して漠然とした不安感を持っているものとうかがわれる。
他方で,申立人については,過呼吸その他の相手方の症状を審判を有利に進めるための詐病と決めつけている(申立人が指摘するとおり,相手方は複数の医療機関を受診しており,継続的な通院もしていないが,複数の医療機関を受診した理由につき相手方から一応の説明がされている上,各医療機関のカルテの記載ほか,本件連れ去りを含む一連の経緯が及ぼした相手方への心理的影響等に鑑みると,現時点での相手方の症状や医師による適応障害との診断が虚偽であるとはいえない。また,前記1(6)サで認定したとおり,監護者指定事件の審判では,申立人と未成年者との面会交流の実施による相手方の精神状態の悪化にまでは言及されておらず,相手方からの具体的な主張も特になかったものとうかがわれるが,監護者指定事件では面会交流の可否自体は中心的な争点ではなく,相手方としても,当庁における面会交流調停における具体的な協議を経て申立人と未成年者との面会交流の実施をより現実の問題として受け止めることになった面があることは否定できず,面会交流調停を経て相手方の症状等に一部悪化が見られるとしても必ずしも不自然とはいえず,監護者指定事件において上記言及がないことから直ちに現時点での相手方の症状や医師による適応障害との診断が虚偽であるとはいえない。)ほか,申立人と相手方との信頼関係の喪失につき「相手方が弁護士に相談して連れ去りや海外逃亡を企てたことが発覚したからであり,相手方にも重大な落ち度がある」と主張するなど,現在でも,本件連れ去りを正当化するかのような主張が見受けられることからみても,前記説示した相手方の申立人に対する強い不信感や,未成年者が感じてきた不安感や心理的な負担感といった心情に思い至っていないと言わざるを得ず,相手方と協力して面会交流を円滑に行おうとする姿勢,ひいては子の福祉に配慮する姿勢が低いというべきである。
これらの事情に照らせば,相手方が試行的面会交流の実施を拒んでおり,家庭裁判所調査官による申立人と未成年者との交流場面観察は実施できていないことを考慮しても,現時点において直ちに,申立人と未成年者との直接の面会交流やオンラインの通信手段を利用した間接交流を実施することは,子の福祉に反し,相当でないというべきである(なお,申立人は,相手方が未成年者に対して時折不適切な行動をとることから,継続的に未成年者との面会交流を実施し,不適切な行動がないかを確認する必要がある旨主張しているが,前記1(7)で認定したとおり,現時点において相手方の未成年者の監護状況に問題はなく,採用することはできない。)。
他方で,相手方は,年2回の写真の送付以外の面会交流を一切拒否しているものの,同居時の申立人の未成年者に対する関わり合いに問題は認められず,長期的な視点でみれば,未成年者が父である申立人の愛情も感じながら成長し,物心両面で必要な時に必要な支援が受けられることは未成年者の利益に適うことであって,今後は,親権者である相手方による未成年者の安定した監護の継続を維持しながら,オンラインの通信手段を利用した間接交流,ひいては直接交流が行える状態になるようにするための準備を,段階的に実施していくことが必要かつ相当であり,具体的には,別紙「面会交流実施要領」記載のとおり,相手方において,3か月に1回の頻度で申立人に対して未成年者の写真を送付するほか,申立人と未成年者との間で手紙等のやりとりを行うという間接的な面会交流を実施することが,現段階における当面の面会交流の方法としては有効かつ相当である(別紙「面会交流実施要領」記載の面会交流の限度であれば,直接的な面会交流やオンラインの通信手段を利用した間接交流と比較して,客観的にみて相手方の負担感は必ずしも大きいものとはいえず,申立人による本件連れ去りを契機とした一連の紛争により申立人と未成年者との交流が途絶えている中で,未成年者の心情にも配慮しつつ,未成年者の申立人との面会交流に対する漠然とした不安感を取り除くための貴重な機会となり得るものといえる。かかる間接的な面会交流を通じ,申立人は,申立人による本件連れ去りを契機とした一連の騒動によって苦痛を受けた相手方や未成年者の心情等に思い至らせ,未成年者に対して反省の気持ちを伝え,その不安を和らげるよう努めるなど,相手方の不安や葛藤を低減していくよう努める必要がある。他方で,相手方についても,前記説示したとおり,別紙「面会交流実施要領」記載の面会交流の限度であれば,客観的にみてその負担感は必ずしも大きいものとはいえず,前記説示した長期的な視点での面会交流の重要性に鑑みれば,相手方にその負担を強いるのもやむを得ないというべきであって[相手方が感じる心理的な負担感やストレスの程度によっては,医療機関の継続的な受診や投薬治療を含めた医師による適切な治療を受けることも検討されるべきである。],まずは申立人に対して未成年者の写真を送付したり,申立人が未成年者に対して送付する手紙等を仲介したりするといった限度で,未成年者の父である申立人と未成年者の関係を遮断することなく,未成年者の心情等に配慮しつつ,面会交流の充実に向けた準備を進めていく必要がある。)。
この裁判例では、3か月に1回の頻度で同居親が別居親に未成年者の写真を送付するほか、別居親と未成年者との間で手紙のやり取りを行うことが認められました(抗告審である東京高決令和5年7月27日も結論同旨)。
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