【大阪の離婚弁護士が教える】権利者が別居の原因を作ったことを理由に婚姻費用の支払いを拒否できるか?

婚姻費用の請求を受けた側(多くの場合は男性)が、「権利者(妻)が勝手に家を出て行っておいて、その後に生活費を請求するなんて不当だ」という思いを抱くことがあります。

では、このような主張は認められるのでしょうか。

この点については、実務書では、「権利者が勝手に別居したなどという同居義務に違反している程度では、婚姻費用の分担請求が信義則違反又は権利濫用であるとはいえず、分担義務の免除または減額の理由とはならないと解されている。」と明記されています(『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点 家事・人事編』32頁)。

裁判例に目を向けても、次のように判示するものがあります(横浜家審平成24年5月28日家月65巻5号98頁)。

相手方は,申立人が理由もなく同居を拒んでいるものであり,有責配偶者からの婚姻費用請求は許されない旨主張するが,別居状態について一方的に申立人に責任があることを認めるに足りる証拠はなく,相手方の主張は採用できない。

 

一方で、別居に至る原因が権利者にあるとして、権利者の生活費分の請求は認めなかった裁判例も存在します。

【東京高決令和6年1月23日】

(1) 夫婦は、相互に扶助義務を負い(民法752条)、別居し又は婚姻関係が破綻している場合であっても、自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。もっとも、別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は、信義則に反し又は権利の濫用として許されない場合があるというべきである。

(中略)

前記認定事実(9)ないし(11)によれば、原審申立人は、①原審相手方との同居期間中、感情的になって、原審相手方に対し、怒鳴りつけたり、叩くなどの暴力を振るったりすることがあったこと、②原審申立人は、二男を妊娠中であった令和4年2月頃以降、このような言動が一層激しくなり、勤務先の原審相手方に電話をし、原審相手方が電話に出ないと、激高して原審相手方を電話口で激しく詰り、慰謝料を支払うよう迫ったり、妊娠中の子を中絶する旨の発言や、原審相手方の書斎の物を全部捨てる旨の発言をしたりしたこと、③同年5月25日には、原審相手方が、約束通り同日午前中に原審申立人に電話をしなかったことに激高して、勤務先の原審相手方に電話をし、原審相手方が午前中に原審申立人に電話をしなかったことや、同月22日にAを叩いたことなどを責め、原審相手方は逮捕される、今すぐ市長に報告する、職場に乗り込むこともできる、妊娠中の子を堕ろすなどと、原審相手方を脅かす内容の発言をするとともに、原審相手方に対し、LINEで、切断された家族の写真の画像や、保険証、長男の母子健康手帳等も切断する旨のメッセージを送信したこと、④そこで、原審相手方は、つくば中央警察署に相談し、一方、原審申立人も同警察署に相談したため、同警察署の警察官の指導により別居するに至ったことが認められる。
 上記認定に係る経緯に照らせば、原審申立人及び原審相手方が令和4年5月25日に別居するに至った主な原因は、原審申立人の原審相手方に対する同年2月頃以降の暴言等、特に、原審相手方が勤務時間中に職場にいるにもかかわらず、原審相手方が電話に出ないことなどに激高して、電話口で原審相手方を理不尽に責め、怒鳴り、A及び長男の写真を切断した画像をLINEで原審相手方に送信するなどの非常識な言動に及んだことにあったものと認められるから、原審申立人は、別居について主として責任のある配偶者であるというべきである。
 したがって、原審申立人が、原審相手方に対し、自らの生活費について婚姻費用の分担を求めることは、信義則に反し又は権利の濫用に当たるものとして許されないと解するのが相当である。

 

やや珍しい事案だとは思いますが、参考になる近時の裁判例といえるのではないでしょうか。

   

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