【大阪の離婚弁護士が教える】婚姻を継続し難い重大な事由とは何か?~配偶者の病気~

配偶者が病気になったという事実が、婚姻を継続し難い重大な事由の一事情となり得るのでしょうか。

今回は、この点が問題となった裁判例を二つ紹介したいと思います。

 

【津地裁四日市支部平成2年4月23日判決】

 1 いずれも弁論の全趣旨により成立の認められる甲第1号証及び乙第2号証、証人C及び同Dの各証言、原告及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
   (一) 被告は、昭和59年ころ、階段を登る際にうまく登れないと感じたことがあり、その後、原被告が経営していた喫茶店で客にコーヒーを出す際、手が震えるということがあった。
 そのため、昭和62年3月ころ、○○市民病院で診察を受けたところ、本症に罹患している旨診断され、同月から同病院に入院した。

   (二) 原告は、被告の入院後、昭和62年6月初めころまで被告を見舞い、毎月8000円ないし1万円の入院雑費を渡したが、その後は見舞いに行っていない。
 なお、本症は、国の特定疾患に指定されているため、治療費の個人負担はない。
   (三) 本症の原因については、ウイルス説、染色体異常説などが唱えられてはいるが、現在のところ判然とせず、また、その治療も対症療法が主となっている。
 本症は、脊髄や小脳の神経に変成を来たすもので、その結果、身体の平衡が保てず、真っ直ぐ歩けない、階段を上手に降りられない、物を正しく運べない、物を持てないなどの症状を呈し、さらに、言語障害、視覚障害なども呈するものである。
   (四) 被告は、○○市民病院に入院後、脊髄や小脳の変成を防ぐ薬剤の注射や脳の代謝、循環をよくする薬の投与を受け、機能回復訓練を受けるなどしたが、現在のところ、真っ直ぐ歩けない、階段は手すりにつかまらなければ昇降できないなどの平衡感覚の障害が顕著にあり、言語障害も若干認められるという状態である。
 被告の現在の状態では、家族の協力の下で日常生活を行うことは決して不可能ではないが、家事労働を行うことは困難である。
   (五) 原被告間の2人の子は、原告が養育している。
  2 右事実によれば、今後、原被告が夫婦として暮らして行くとは困難であると認められ、したがって、原被告間の婚姻を継続し難い重大な事由があるものといわざるをえない。
 なるほど、妻が難病に罹患した場合に、夫が献身的に妻の介護にあたり、夫婦のきずなを保ち続けるという事例もあることは公知の事実であるが、このような行為は美談として称賛されるものではあっても法的にこれを強制することまではできず、また、原告は、昭和62年6月初めに見舞った後は、被告の見舞いにも行かず、入院雑費も負担しておらず、これが夫婦の関係を疎遠なものにした一因ではあるが、これが婚姻関係の破綻の主たる原因であるともいえない。
 そうすると、原告の離婚請求は理由がある。

この裁判例では、妻が難病になった場合に、その介護等を夫に法的に強制することまではできないとしたうえで、夫からの離婚請求を認めました。

 

一方で、配偶者の病気という事情がある事案において、離婚を認めなかった裁判例もあります。

【東京地裁平成15年12月26日判決】

3 ところで、不治の精神病を理由とする離婚請求については、民法は単に夫婦の一方が不治の精神病にかかった一事をもつて直ちに離婚の訴訟を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚因関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意と解すべきである(最判昭和33年7月25日・民集12巻12号1823頁。同旨最判昭和45年11月24日・民集24巻12号1943頁)。
 本件は、「婚姻を継続し難い事由」を理由とする離婚請求であって、「不治の精神病」を理由とする離婚請求ではなく、また、被告の精神病も不治の精神病とはいえないことは前記認定のとおりであるけれども、本件のように、精神病を一つの理由として離婚請求された場合にも、不治の精神病を理由とする離婚請求に関する上記考慮を及ぼすのが相当な場合があり、婚姻関係が破綻している場合であっても、精神病の程度、子の有無及び年齢、離婚に至った場合に想定される子の監護者、病者及び子の生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じたか否か、その方途の見込み等を考慮し、婚姻関係を解消することが相当でない場合には、離婚請求は許されないものと解すべきである。
 これを本件についてみるに、被告の今後の生活等につき、社会福祉によってある程度の期待はできるとしても、先に認定した被告の精神病の程度等からすれば、離婚を認めた場合には、高校入試を控えたAが被告の監護者としての機能を相当程度果たさざるを得ないことが明らかであって、被告の今後の生活等に具体的方途の見込みがついたとはいい難く、Aが高校進学を希望し、被告もこれに対する全面的援助を希望している現状においては、被告の今後の生活及びAの福祉を考慮すると、Aの共同親権者である原告による経済的側面をも含めた扶助を期待せざるを得ず、いま直ちに婚姻関係を解消させるのは相当でないというべきである。

 

☆弁護士法人千里みなみ法律事務所では、多数の離婚案件を取り扱っており、多くのノウハウや実績がございます。

離婚のご相談をご希望の場合はお問い合わせフォームよりご予約ください。