【大阪の離婚弁護士が教える】夫と肉体関係を持った風俗嬢に対して慰謝料を請求できるか?
1.はじめに
前回の記事では、夫と不貞行為に及んだクラブのホステス等に対して慰謝料請求ができるかについて説明しました。
結論としては、不貞相手がホステスであったということだけをもって慰謝料請求が排斥されることはないということでしたが、これが風俗嬢であった場合はどうでしょうか。
風俗嬢の場合、ホステスとは異なり、性的サービスの提供を業として行っていることから、慰謝料請求は認められないようにも思えますが、以下ではいくつか裁判例を見てみたいと思います。
ちなみに、風俗利用が不貞行為に当たるかという論点(妻が夫の風俗利用を理由として、夫に対して離婚や慰謝料を求める場面)については、こちらの記事を参照ください。
2.裁判例の分析
【東京地判平成26年4月14日】
第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,原告も主張するとおり,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される(原告は,当該売春行為が不法行為に該当しないのは,正当業務行為として,違法性を阻却することによる旨を主張するが,違法性阻却を問題とするまでもないというべきである。)。
➣対価を得て性交渉を行った場合には、妻に対する不法行為を構成しないという考え方を示した。
【東京地判平成27年7月27日】
(2) これらの認定事実によると,被告は,Aが婚姻していることを知りながらAと肉体関係を継続的に持っていた事実が認められるが,そのうち平成25年10月までのものは,性的サービスの提供を業務とする本件店舗において,利用客であるAが対価を支払うことにより従業員である被告が肉体関係に応じたものであると認められ,それ自体が直ちに婚姻共同生活の平和を害するものではないから,これが原因で原告とAとの夫婦関係が悪化したとしても,被告が故意又は過失によってこれに寄与したものとは認め難いというべきである。
この点,原告は,Aが被告方に行くのを何度か目撃するなどしたとして被告方でAと被告が接触していたと主張するが,この点に関する原告本人の供述は伝聞を含む曖昧なもので,反対趣旨のAの証言及び被告本人の供述に照らしても直ちに採用できず,他に,同月以前にAと被告が本件店舗外で肉体関係を持ったことを認めるに足りる証拠はない。
(3) 他方,前記認定事実によれば,同月以降に被告がAと持った肉体関係は,本件店舗外におけるものであることが認められるところ,Aは,単に性的欲求の処理にとどまらず被告に好意を持っていたからこそ,本件店舗の他の従業員ではなく,被告との本件店舗外での肉体関係の継続を求めたものであり,被告もこれを認識し又は容易に認識できたのにAの求めに応じていたものと認められるから,被告が自らは専ら対価を得る目的でAとの肉体関係を持ったとしても,これが原告とAの夫婦関係に悪影響を及ぼすだけでなく,原告との婚姻共同生活の平和を害し,原告の妻としての権利を侵害することになることを十分認識していたものと認めるのが相当である。
そうすると,被告が同月以降に本件店舗外においてAと肉体関係を持ったことは違法性を帯び,不法行為に該当するものというべきであり,被告が対価を得て行っていた職務であって不貞行為に該当しないとする被告の主張は採用できない。
2 争点(2)(慰謝料額)について
以上の認定説示を総合すると,被告は,配偶者がいることを知りながらAと不貞行為に及んだものと認められ,これにより原告が相応の精神的苦痛を被ったことは明らかであるが,他方で,その不貞行為はAが主導して行ったもので,被告がAに対して好意や恋愛感情を抱いていたものではなく,回数も10回程度にとどまるというのであり,被告による不法行為の態様が非常に悪質とまでは評価できないというべきである。また,証拠(甲2,乙1,2,証人A,被告本人)によれば,被告は,Aから1回2万5000円の対価を得ていたほかに金銭を受領していたものではないこと,Aとの関係の発覚後,被告が原告に対し,Aとの関係を謝罪する旨の文書及び今後Aと接触しない旨の誓約書を送付して一定の慰謝の措置を講じたこと,被告が誓約書に反してAと本件施設に赴いたのはAが主導したものであることが認められ,原告の精神的苦痛は,主にAの行為によるところが大きいものと認められる。
そこで,以上の諸事情,その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,原告が被告によるAとの不貞行為によって被った精神的苦痛を慰謝するのに相当な慰謝料額は,60万円と認めるのが相当である。
➣対価を得て店舗内で性的サービスを提供した場合には、故意・過失が認められず、不法行為を構成しない一方で、店舗外での肉体関係は違法性を帯び不法行為に該当するとした。
【東京地判令和3年1月18日】
ア 原告は,被告がAに対して本件性的サービスを行う際に,性交渉も行ったものであり,かかる性交渉は,原告の婚姻共同生活の平和の維持を侵害する違法なものであると主張する。
イ 性交渉の有無について
①Aが,本件性的サービスの際に被告と性交渉を行ったことを明確に認め,その状況を詳細に述べており(甲1),Aが,敢えて被告と性交渉を行った旨の虚偽を述べる合理的な理由を見出し難いこと,②甲6及び被告本人の供述によれば,被告は本件店舗で「C」という名称で稼働していたところ,本件店舗に関するインターネット上の掲示板に「C,本ありなんだ!」と,被告が本件店舗の業務に際して利用客と性交渉に及んでいることを窺わせる記載があることが認められ,これらの事情からすれば,被告は,本件性的サービスの際,Aと性交渉に及んだものと認めることができる。
ウ 被告がAと性交渉をしたことの違法性について
本件性的サービスの時点における被告とAとの関係は,Aが平成29年12月22日に本件店舗を利用して被告を指名し,その約3週間後にAが再び本件店舗を利用して被告を指名したというもの(前提事実(2),(3))にとどまり,本件店舗の従業員と利用客という関係を超えた個人的な男女の関係があったと認めるに足りる証拠はない。
この点,原告は,①本件性的サービスの後に被告がAと連絡先を交換した上,金銭の借入れを打診し,Aがこれに応じて被告に対し194万4000円を貸し付けたこと,及び,②被告とAが平成30年5月頃までの間,頻繁に連絡を取り合ったり,2人で食事をしていたことをもって,被告とAが,本件店舗の従業員と利用客の関係を超えた私的な男女の関係にあったものと主張するものと思われ,甲1,3から5までの証拠によれば上記①及び②の各事実が認められる。
しかしながら,原告が本件において不法行為であると主張するのはあくまでも本件性的サービスの際になされた性交渉のみであって,本件性的サービス後の事情である上記①及び②の事実をもって,本件性的サービスの時点から被告とAが本件店舗の従業員と利用客の関係を超える関係を有していたと推認することはできない。
エ このように,本件性的サービスは,性的サービスの提供を業務とする店舗の従業員と利用客という関係に基づいてなされたものであり,その際になされた性交渉も,被告とAの従業員と利用客という関係を超えてなされたものとは認められない。
そして,風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが,直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く,仮に,婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても,その程度は客観的にみて軽微であるということができる。
そうすると,仮に,被告とAとの間でなされた本件性的サービスの際の性交渉が,原告の婚姻共同生活の平和の維持を侵害し,不貞行為に当たり得る面があるとしても,それにより,原告に,金銭の支払によらなければ慰藉されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない。
この点,原告は,本件店舗が本来は性交渉を提供していない業態であるにもかかわらず,被告がAと性交渉に至ったとの点が原告の権利を侵害するものであり,その違法性を肯定しないことは,売春行為が適法であることを認めることになるなどと主張する。しかしながら,本件店舗の業態を考慮しても,既に説示したとおり,被告とAとの関係が,本件店舗の従業員と利用客の関係を超えるものではないことからすれば,原告に対する違法性を具備するかという観点においては,本件性的サービスの際の性交渉も,業務の一環又はその延長としてなされたと評価し得るというべきである。Aと被告との間の性交渉が売春防止法等の法令上違法とされる可能性があることと,これが原告個人の権利を侵害するか否かということは別問題であり,原告の主張は採用できない。
また,原告は,前記最高裁判所昭和54年3月30日判決を引用して,慰謝料を請求する者の配偶者と不貞行為の相手方との間の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず,両者間の性交渉は違法性を有する旨主張するが,同判決は,原審において,慰謝料を請求する者(妻)の配偶者(夫)と不貞行為の相手方との間の関係が,相互の対等な自然の愛情に基づいて生じたものであり,不貞行為の相手方が夫との肉体関係,同棲等を強いたものでもないから,慰謝料を請求する妻に対して違法性を帯びるものではないと判断された事案にかかるものであって,本件とは事案を異にし,採用できない。
2 結論
以上の次第であって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
➣性的サービスの提供を業務とする店舗の従業員と利用客という関係に基づいてなされた性交渉は不法行為を構成しないとした。
【東京地判令和5年7月12日】
(1) 上記認定事実記載のとおり、被告はAとの間で、令和3年1月頃から5月頃にかけて、約10回継続的に性交渉を持っている。被告とAとの関係は、JKリフレの利用を介してのものであって、被告は、JKリフレの従業員の給与体系上、通常のサービスだけではほとんど稼ぎはなく、裏オプションを行ってその料金を得ることがほぼ必須であったと主張するものの、仮にそうであったとしても、裏オプションを利用するかどうかは、最終的には利用客と従業員との交渉によって定まるものと解され、JKリフレの従業員が利用客と性交渉を持つことが当然の前提になっていたとまでは認めがたい。
(2) その上で、被告は、Aが既婚者であることを知り、その上でAとの性交渉に応じている。たしかに、被告とAとの性交渉は全て、JKリフレの裏オプションとしての料金を支払った上でのものではあり、その関係は主として利用客と従業員というものにとどまっていたものとは解されるものの、被告からAに対し、上記認定事実(4)記載のような、「彼氏だと思っている」などと恋愛感情を示すようなやりとりをしていることなども含めて考えると、たとえ被告の内心がAによる利用を促すための営業行為であったとしても、その態様として、原告とAとの夫婦共同生活の平和を害さないものとまでは認めがたく、不法行為自体の成立は否定されない。
(3) ただし、被告とAの関係が従業員と利用客という関係を主とするものであることなどの上記の事情は、婚姻共同生活の平和を害する程度としては一般的な不貞行為に比して相対的に低いものというべきであり、上記の被告とAとの性交渉の頻度や態様に加え、原告とAが現時点において離婚には至っていないことなど、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、原告の慰謝料の額は60万円が相当であり、相当因果関係を有する弁護士費用としては6万円が相当である。
➣対価の支払いがあったとしても、当事者間のやり取り等を踏まえると不法行為に該当するとした。
3.まとめ
以上の裁判例を踏まえると、性的サービスの提供を目的とした店舗において、利用客と従業員という関係で、夫が風俗嬢からサービスの提供を受けた場合には、妻から風俗嬢に対する慰謝料請求は基本的には認められないと考えられます。
これは、風俗嬢からすると、通常は当該客が既婚者なのかどうかも分からず、仮に既婚者であったとしても夫婦関係を壊す意図も目的もないのが通常であることから、故意・過失がないといえることが理由になると思われます。
一方で、利用客と従業員という関係を越えて、肉体関係を持った場合には、妻から風俗嬢に対する慰謝料請求が認められる余地があります。
さらに、最後に挙げた裁判例のように、性的サービスの提供を目的としているとまではいえない店舗の場合には、利用客と従業員という関係で、対価の支払いも伴っていたとしても、不法行為が成立し得る(妻からの慰謝料請求が認められ得る)という点には留意が必要です。
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