【大阪の離婚弁護士が教える】夫と肉体関係を持ったホステス等に対して慰謝料を請求できるか?
1.はじめに
配偶者が不貞行為に及んだ場合、配偶者だけでなく、その不貞相手に対しても原則として慰謝料を請求することができます。
では、不貞相手がホステス等の接客のプロであった場合でも、同じように慰謝料を請求することができるのでしょうか。
2.枕営業判決
この種の事例に関する有名な裁判例として、東京地判平成26年4月14日があります。
いわゆる「枕営業判決」と呼ばれるものです。
事案は、夫がクラブのママと継続的に肉体関係を持ったとして、妻がクラブのママに対して慰謝料を請求したというものです。
裁判所は次のように判断しました。
1 本件不貞行為の存否(太郎の不貞行為の相手方が被告であったのか否か)については当事者間に争いがあるが,仮に,本件不貞行為の存在が認められるとしても,本件不貞行為の内容は,請求原因によれば,本件クラブのママである被告が,顧客である太郎と,平成17年8月から平成24年12月までの間,月に1,2回,主として土曜日に,共に昼食を摂った後に,ホテルに行って,午後5時頃別れることを繰り返したというものであり,また,太郎の陳述書(甲1)の記載内容も,上記7年間に2,3回,お小遣いとして1万円を渡したことがあったこと,平成24年の後半に入って以降は,太郎の方から積極的に誘うこともなくなり,被告からの連絡も来なくなって,自然消滅のような形で関係が終わったことなどが追加記載されている以外は,上記請求原因と同じである。また,同陳述書及び弁論の全趣旨によれば,太郎は,平成12年から株式会社Eの代表取締役を務めており,本件クラブには,平成17年3月に行って以来,月に1,2回の頻度で通うようになり,一人で行くことが多かったが,同業者を連れて行くこともあったこと,太郎が本件クラブに行ったのは平成25年4月26日が最後であったことが認められ,この認定に反する証拠はない。
2 第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,原告も主張するとおり,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される(原告は,当該売春行為が不法行為に該当しないのは,正当業務行為として,違法性を阻却することによる旨を主張するが,違法性阻却を問題とするまでもないというべきである。)。
ところで,クラブのママやホステスが,自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や,クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために,様々な営業活動を行っており,その中には,顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして,当該顧客と性交渉をする「枕営業」と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。
このような「枕営業」の場合には,ソープランドに勤務する女性の場合のように,性行為への直接的な対価が支払われるものでないことや,ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して,クラブのママやホステスが「枕営業」をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。しかしながら,前者については,「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎない。また,後者については,ソープランドとは異なる形態での売春においては,例えば,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。
そうすると,クラブのママないしホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが「枕営業」であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
➣本件におけるクラブのママと夫との肉体関係は枕営業に当たるとして、妻の慰謝料請求を認めませんでした。
3.枕営業判決後の裁判例の流れ
【東京地判平成28年10月17日】
2 争点(1)(本件不貞行為の存否)について
(1) 被告はAとあえてホテルに宿泊し,あるいは長時間滞在するという行動をとっていること等に照らし,特段の事情が認められない限り,被告及びAはホテル宿泊又は滞在の都度本件不貞行為に及んでいたものと推認するのが相当である。
(2) この点に関し,被告は,営業努力の一環として勤務先のクラブの常連客であるAとの店外の食事などに付き合っていたにすぎないと主張する。
確かに,ホステスが営業努力として常連客といわゆる同伴出勤をしたり,外出したりすることは一般的に見られるところである。しかし,たとえ相手が常連客であるとしても,外部との接触が遮断され,性交渉等を迫られた際にこれを回避することが著しく困難となるホテルに,あえて二人きりで宿泊等することがホステスの営業努力として一般的であるなどとは到底いえない。ホステスであっても,このような行動は性交渉等を目的とするものであるか,これを容認した上でのものと考えるのが自然かつ合理的である。
ましてや,被告は,平成27年5月7日には原告から電話を受け,本件不貞行為の存否を問い質されている。原告から本件不貞行為を疑われていることは明らかであって,場合によっては本件のような紛争に発展しかねない状況にあることを被告は容易に認識したはずである。それにもかかわらず,被告がその後も営業努力などとしてAとホテルに宿泊等することなど通常あり得ない。
さらに,被告は,Aと抱き合ってキスをしていたこともあったところ,これも一般的な営業努力とはいい難い。
これらの検討を踏まえると,この点に関する被告の主張並びにこれに沿う被告の陳述(乙1,被告本人)及びAの陳述(乙2)はいずれも採用することができない。
(3) そうすると,被告及びAはホテル宿泊又は滞在の都度本件不貞行為に及んでいたものと認められる。3 争点(2)(原告の損害額)について
(1) 慰謝料 200万円
本件不貞行為はさほど長期間にわたるものではないが,原告は本件不貞行為を契機としてAと不仲になり,Aと別居して現在離婚訴訟を追行していることに照らし,原告とAとの婚姻関係は本件不貞行為によって破綻させられたものと認められる。被告は,原告に対し慰謝料を支払うべきである。
そして,原告とAとの婚姻期間,原告の年齢,Bの存在のほか,原告が本件不貞行為等を思い悩むうちに適応障害に罹患し,また,17年以上にわたって勤務した勤務先店舗も退職したことなどのほか,本件全証拠及び弁論の全趣旨によって認められる本件に関する一切の事情を総合考慮して,被告が原告に対し支払うべき慰謝料の額は上記金額と認めるのが相当である。
➣クラブのホステスに対して200万円の慰謝料支払いを命じました。
【東京地判平成29年3月13日】
(2) 以上の認定事実によれば,Aと被告は,クラブの顧客とその担当ホステスとして,被告が勤務するクラブの営業時間中及びその前後に,被告の営業活動として飲食等を共にしていたことが認められるところ,その限度であれば,直ちにAと被告との間の性的関係の存在を窺わせるものではなく,かかる行動が原告とAの婚姻共同生活の平穏を害するものとも認め難いというべきである。
しかしながら,Aと被告は,これにとどまらず,3回にわたって2人で旅行に赴き,いずれもホテルの同室に3日間ずつ宿泊したというのであり,Aと被告の双方が同室に宿泊するようホテルの予約をしたのであるから,これが上記のような被告のホステス業の営業活動の一環とはにわかに認め難いといわざるを得ず,かかる機会にAと被告が性的関係を持つに至ったことが推認できるというべきであって,少なくとも性的関係を持ったと思われてもやむを得ない状況にあったものと認めるのが相当である。そして,かかる事実を認識した原告が,Aと被告の関係を単なる顧客と担当ホステスとの営業活動にとどまらず性的接触を伴う交際関係にあると考えたことには相応の合理的根拠があるというべきところ,被告としても,これが原告とAの夫婦関係に悪影響を及ぼして婚姻共同生活の平和を害し,原告の妻としての権利を侵害することになることを認識していたものと認めるのが相当である。
そうすると,上記態様によりAと交流した被告の行動は,原告とAの夫婦関係に少なからず悪影響を与える蓋然性があるものであり,婚姻共同生活の平和を一定の限度で侵害したことが認められるから,原告に対する不法行為を構成すると認めるのが相当である。被告は,Aとの間の性的関係の存在を否認するとともに,Aとの交流はホステス業としての顧客との交流にすぎないと主張し,被告本人もこれに沿う供述をするが,これらをもって上記認定説示を覆すに足りるものではなく,いずれも採用できない。
2 争点(2)(損害額)について
(1) 上記前提事実,上記認定説示及び証拠(甲4,7,証人A)並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,Aと被告が原告に秘して上記1で認定した3回の旅行等の交流を行っていたことを知り,一定の精神的苦痛を被ったことが認められるが,Aと被告との性的関係は3回の旅行の機会にその存在が推認できるにとどまり,Aと被告が他の東京出張の機会にも性的関係を継続して持っていたことまでは認められず,不貞行為の回数・頻度,期間等を具体的に認定できる証拠はないし,被告が原告とAとの婚姻関係を積極的に侵害しようとしたことは窺われず,その態様がことさら悪質なものとは認めることができない。また,前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告とAの婚姻関係は,本件が原因で破綻したり婚姻解消に向けた協議等がされているものではなく,関係修復に向けて双方が努力している状況にあることが認められる。
そこで,以上の諸事情,その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると,原告が被告による上記行為によって被った精神的苦痛を慰謝するのに相当な慰謝料額は,30万円と認めるのが相当である。
➣クラブのホステスに対して30万円の慰謝料支払いを命じました。
【東京地判平成30年1月31日】
(1) 前提事実及び以上の認定事実によれば,被告と亡Aとの関係は,「同伴出勤」や「アフター」で飲食を共にするといったいわゆるホステスとその客という関係にとどまるものではなく,複数回に及ぶホテルや大洗町の自宅での2人きりでの宿泊,裸の写真撮影の許容といったエピソードからも明らかなように,平成23年8月頃以降,肉体関係を含む個人的な交際関係に発展するに至っていたものと認めるほかない。
そうすると,被告と亡Aとの間に不貞関係があったことは明らかである。
(2) これに対し,被告は,ホステスとして,亡Aに来店してもらい指名をとるために好意があるふりをしていただけであり,肉体関係に及んではいないと主張する。
しかし,好意があるふりをするためだけに,客の前で上半身裸のまま歯を磨いたり,ベッドに仰向けに横たわったり,胸をあらわにした状態でソファに座ってカメラ目線で写真を撮影されることを許容したりするという行動に及ぶということは,通常の羞恥心や貞操観念を持つ女性の行動としては理解し難いものといわざるを得ず,説明として無理があるというほかない。
また,実際に,被告が亡Aに対して好意を抱いていたかどうかはともかく,ホステスとして指名をとるためであったという動機と,客と肉体関係に及ぶという行為とは,特段の排斥関係に立つものではない。念のために検討すると,この行為が,仮に,いわゆる「枕営業」と称されるものであったとしても,被告が亡Aと不貞関係に及んだことを否定することができるものではないし,仮に,そのような動機から出た行為であったとしても,当該不貞行為が,亡Aの配偶者である原告に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当する以上,不法行為が成立するというべきである。そして,このような原告の利益は,本件提訴前に亡Aが亡くなっていたからといって,消滅するものではない。
(3) また,被告は,亡Aが言い寄ってくることについて恐怖を感じたことから,渡米準備を理由としていわゆる自然消滅の形にするしかないと考えていたのであり,亡Aと肉体関係を持ったことはないとも主張する。
しかし,仮に,被告がそのように考えていたのだとすれば,平成27年2月に亡Aと食事を共にしたり,同年3月に亡Aからもらったプレゼントに対するお礼のメールを送信したりしたのみならず,渡米後,まさに自然消滅が実現したはずの同年12月に至って,亡Aの携帯電話に電話をかけたという被告の行動は,明らかに不自然というほかない。
なお,交際の当初,互いに惹かれ合っていたとしても,後にその関係性が変化し,一方が他方との関係の自然消滅を図ろうと考えるに至ることは,男女交際においてはまま見られるところであり,仮に,被告が,平成26年の後半ないし平成27年に入って亡Aとの関係の自然消滅を図ろうと考えていたとしても,そのことは,それ以前に被告と亡Aとが不貞行為に及んでいたことと何ら矛盾するものではない。
(4) よって,被告の主張には理由がない。(中略)
5 損害額
(1) 前提事実及び以上の認定事実によれば,①原告と亡Aとの婚姻期間は約32年以上に及んでいたこと,②亡Aと被告との不貞関係の期間は,平成23年8月頃から被告が亡Aを最後に自宅に招き入れたことの明らかな平成26年の年末まで,頻度の繁閑こそあれ,断続的に続いていたものとみられること,③この間の原告と亡Aの間の夫婦関係については,別居こそしていたものの,それは子らの米国留学を理由とするものであって,夫婦仲が悪かったからではないこと,④亡Aと被告とが不貞行為に及ぶ際は,主に亡Aが予約し寝泊まりすることの多かったホテルを利用していたようであるものの,原告と亡Aの日本における生活拠点である大洗町の自宅も利用していたとみられること,⑤不貞関係発覚時の状況が,亡Aの死亡直前に原告が亡Aの看病をしている最中であり,原告において,気持ちの整理をつける間もなく亡Aが死亡したこと,⑥事後の事情として,被告は,提訴前の原告訴訟代理人からの自分宛の内容証明郵便につき,宛先違いであるとしてこれを返送するという不誠実な対応をしたことなど,慰謝料の増額方向にはたらく要素とみるべき事情を認めることができる。
(2) しかし,一方で,①不貞関係の開始に至る経緯については,亡Aの方から,客として,ホステスであった被告に対する積極的な働きかけがあって始まった関係であり,仮に,被告側においてこれを店に来てもらう手段として利用しようとする思惑があったとしても,基本的には,本件備忘録等から明らかなように,亡Aが被告に対して好意を抱き,主導的に被告を誘った結果,不貞関係に発展したものと認められること,②被告としては,少なくとも不貞関係の開始当初から亡Aに妻がいたことを知っていたわけではないようであること,③被告は,亡Aと不貞関係にあった当時,交際相手こそいた時期があったものの未婚であったこと(平成27年1月以降は,食事を共にしたりメールや贈り物のやりとりがあったりした程度の証拠があるのみであり,肉体関係を含む交際関係が続いていたことを窺うことのできる証拠はない。),④事後の事情として,誠に不幸なことではあるものの,原告と亡Aとの別れが,不貞関係の発覚を原因とする婚姻関係の破綻を原因とするものではなく,亡Aの病気を原因とするものであったことなど,慰謝料額を制限する方向にはたらく要素とみるべき事情も認めることができる。
(3) なお,原告は,被告が亡Aから高額なプレゼントをもらったり,家賃の負担をしてもらっていたりしたはずであるとも主張するが,プレゼントについては花束のような一般的な金額のものと思われる程度のもの以外に確たる証拠はなく,また,家賃については,少なくとも被告が六本木七丁目に居住していた時代はD氏が負担していたことが明らかであり,六本木三丁目に転居してからの家賃についても,これを亡Aが支払っていたとする確たる証拠がないから,たとえ亡Aの遺産が原告の思っていたほど多くなかったからといって,被告がその恩恵を受けていたものと認めるに足りない。
また,原告は,被告が,亡Aと不貞行為に及んでいた期間中に,D氏やB氏との交際にも及んでいたことは慰謝料の増額事由に該当すると主張するが,それは,最期まで被告が独身であり自分に対して好意を抱いてくれていたと思っていた亡Aにとって残念な事情であったことはともかく,原告に対する慰謝料の増額事由として評価することはできない。
(4) 以上の諸事情を総合考慮するとともに,不貞行為が被告と亡Aとの共同不法行為であることを併せ考えると,原告の精神的苦痛に対する慰謝料は,100万円をもって相当と認める。
➣クラブのホステスに対して100万円の慰謝料支払いを命じました。
4.まとめ
以上の3つの裁判例を見る限り、不貞相手がクラブのホステス等であったとしても、そのことだけを理由として慰謝料請求が排斥されることはないと考えられます。
冒頭に挙げた「枕営業判決」はやや珍しい考え方を取ったといえ、これが実務の一般的な考え方とまではいえないと思われます。
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