【大阪の離婚弁護士が教える】別居調停と調停前置主義の関係~別居調停を成立させると調停前置にならないのか~

1.はじめに

前回の記事で、「別居調停」という言葉が用いられるのは、①離婚調停の中で、離婚については合意できなかったものの、当分の間別居することについては合意ができた場面(離婚調停が別居調停にスライドするパターン)と、②初めから離婚ではなくて別居することを求めて調停が申し立てられた場面(最初から別居調停が申し立てられるパターン)の2つがあり、実務上は①の方が圧倒的に多いということを説明しました。

この点に関して、別居調停のデメリットという形で、別居調停では調停前置にならない、つまり、改めて調停をしなければいけないという説明をするサイトがあるようです。

では、これは事実なのでしょうか。

今回は、「別居調停と調停前置」というテーマについて解説をしてみたいと思います。

2.別居調停が成立した場合

調停の中で「当分の間、別居しましょう」ということで別居調停が成立した後、一定の別居期間を経て、やっぱり離婚したいと思った場合に、調停前置がされているということで、いきなり離婚訴訟を提起できるのか、それとも再度離婚調停を申し立てなければならないのかということが問題となります。

別居調停では調停前置にならないとするサイトの解説によると、調停が成立していると調停前置とはいえないと考えているようですが、これは当たっているのでしょうか。

まず、調停前置に関する家事事件手続法の規定を見てみることにしましょう。

(調停前置主義)

第二百五十七条

1 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。

2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。

3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。

この規定を見るとわかるように、家事事件手続法には「家事調停の申立てをしなければならない」と規定されているだけです。

つまり、調停が不成立になっていなければならないとはどこにも書かれていないわけです。

したがって、別居調停が成立している場合であっても、必ずしも調停前置に当たらないとは言い切れないことがわかります。

では、「別居」調停が成立している場合に、「離婚」訴訟に関する調停が前置されているといえるのでしょうか。

ここで、調停前置に関して解説する文献の記載を見てみましょう。

次のような場合に、調停を前置したか否かが問題となる。

すなわち、(略)③離婚調停(夫婦関係調整調停)ではなく、夫婦関係円満調整、同居、婚姻費用分担等の調停をした場合(略)である。

結論的にいえば、上記の事例においては、これを事件名等によって形式的に見るのではなく、当該事件について実質的に調停を経たといえるかどうかを問題とすべきである。それゆえ、調停が取下げで終了したとしても、争点について調停手続においてきちんと調整がされているのであれば、調停を経ていると考えてよいであろう。

(秋武憲一=岡健太郎『四訂版 離婚調停・離婚訴訟』青林書院24頁)

この記載を前提とすると、別居調停が成立した場合であったとしても、その調停の中で離婚のことなど夫婦関係に関する話し合いがなされたといえるのであれば、離婚事件の調停前置となる可能性があるといえます。

裁判例にも目を向けてみると、東京地判平成9年10月23日判タ995号234頁は、夫が申し立てた調停では、離婚についての合意は成立せず、当分の間別居すること及び婚姻費用の分担等について合意するだけにとどまったという事案において、その後別居を経て(再度の調停を経ずに)、夫が離婚訴訟を提起して離婚が認められるに至っています。

この裁判例を見ると、当事者の間では別居調停が成立しているようですが、その後に再度の調停をすることなく離婚訴訟を提起することができていることが分かります。

以上より、別居調停が成立したとしても、その調停の中で離婚に関する話し合いがなされていたのであれば、調停前置となり、再度の調停を経ることなく、離婚訴訟を提起することができる可能性があるといえます。

ただし、注意が必要なのが、別居調停成立から長期間が経過した場合は、その後に訴訟提起したとしても、裁判所の判断で、当該事件が調停に付される可能性があります(家事事件手続法274条1項)。

これは別居調停だからというわけではなく、前回の調停から長期間が経過していることで、事情が変わっている可能性があることから、改めて調停から始めてみた方がよいという裁判所の判断ということです。

3.別居調停の申立てがあったが、不成立になった場合

別居調停の申立てがされることは極めて稀ではありますが、そのような調停が申し立てられ、結果的に調停が不成立になるという場合も考えられます。

この場合の調停前置については、次のように説明されています。

別居調停について合意が成立しない場合には、調停は不成立となります。当事者が離婚したいのであれば、法定の離婚自由(民法770条1項1号ないし5号)があることを主張して、離婚を求める裁判(離婚訴訟)を提起することになります。この場合、別居調停により調停を前置したことになるかという問題があります。これは、別居調停において、婚姻関係の維持継続についてどこまで話し合いがされたかということです。同居して共同生活を続けるか否かについて十分話し合ったのであれば、調停を前置したことになると考えます。

(秋武憲一『第4版 離婚調停』日本加除出版134-135頁)

したがって、別居調停が不成立になった場合でも、今後の夫婦関係について十分に話し合いがされていたのであれば、離婚事件に関する調停前置があったといえることになります。

4.まとめ

以上見てきたとおり、①離婚調停の中で、離婚については合意できなかったものの、当分の間別居することについては合意ができた場面であれ、②初めから離婚ではなくて別居することを求めて調停が申し立てられたが不成立になった場面であれ、調停の中で離婚のことなど夫婦関係に関する話し合いがなされたといえるのであれば、調停前置といえると考えられます。

したがって、別居調停だと調停前置にならず、再度調停を経なければいけないと言い切ってしまう説明はややミスリードな印象があるといわざるを得ません。

重要なのは「別居調停」という形式的な名称云々ではなく、その調停の中でどのような話し合いがなされたのかという点です。

なお、上記①②いずれであっても、調停成立後あるいは調停不成立後、長期間が経過しているような場合には、いきなり訴訟提起したとしても、裁判所の判断で再度の調停をするよう命じられる(調停に付される)可能性がある点には注意が必要です。

ただし、これは離婚調停でも同じで、離婚調停が不成立になってから長期間が経過した後に、離婚訴訟を提起すると、裁判所の判断で調停に付されることがあります(二宮周平=榊原富士子『離婚判例ガイド〔第3版〕』有斐閣36頁)。

したがって、離婚調停であれば調停前置になる、別居調停であれば調停前置にならないということではなく、調停から長期間が経過すると、いくら調停が前置されていたとしても、再度の調停からスタートする可能性があるというように理解していただければよいと思います。