【大阪の離婚弁護士が教える】共同親権・条文解説⑤~緊急時や日常行為時にも共同で親権を行使しないといけない?~
1.共同親権者の権限
前回の記事で、共同親権としたとしても、子の監護権(簡単にいうと、子どもと一緒に生活する権利)については、共同監護(父母それぞれが適当な頻度等を決めて子どもと一緒に暮らす方法)、単独監護(父母のいずれかが子どもと一緒に暮らす方法)いずれもあり得るということを説明しました。
また、共同監護と一口に言っても様々な方法があると思いますが、その点は措いてシンプルに考えると、共同親権とする場合、①共同親権+共同監護(一方を監護者とする定めをしない場合)、②共同親権+単独監護(一方を監護者と定める場合)の2パターンがあるということになります。
①のパターンの場合は、父母双方が親権を持ち、子の監護に関わるわけですから、一方の親だけが子どもに関することを何でも自由に決めていいわけではないというのが自然な発想として出てきます。
一方で、②のパターンであれば、前回の記事で説明したとおり、「①子の監護及び教育、②居所の指定及び変更、③営業の許可、その許可の取消し及びその制限」については、監護者となった方の親権者は、他方親(共同親権者)に口出しされることなく、これらのことについては決めることができます(翻って、これら以外のことについては他方親権者も親権を行使することができるということです)。
2.共同親権であっても単独で親権を行使できる場面
上記①②いずれであっても、共同親権とする以上、一方の親が何でもかんでも単独で親権を行使できるわけではないということです。
とはいえ、常に共同で親権を行使しなければならないというのでは不都合が起きる可能性もあります。
そこで、改正民法は次のように規定しました。
【改正民法824条の2】
1.親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2.父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3.特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
第1項・2項を見ると分かるように、共同親権とした場合には、原則として父母が共同で親権を行使するけれども、例外的に子の利益のため急迫の事情があるときや、監護及び教育に関する日常的な行為については単独で親権行使が可能とされています(離婚時に単独親権とした場合には、言うまでもなく単独で親権を行使することできます)。
ここでいう、「子の利益のため急迫の事情があるとき」というのは具体的にどのような場面が想定されているのでしょうか。
この点について、政府参考人は次のように説明しています。
子の利益のため急迫の事情があるときとは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時に親権を行使することができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるような場合を指します。
急迫の事情があるとされる例としては、入学試験の結果発表後の入学手続のように、一定の期限までに親権を行うことが必須であるような場合、DVや虐待からの避難が必要である場合、緊急の医療行為を受けるため医療機関との間で診療契約を締結する必要がある場合などがあります。
(第213回衆議院法務委員会会議録6号)
本改正案では、父母双方が親権者である場合には、子の居所の変更を含めて親権は父母が共同して行うとした上で、子の利益のため急迫の事情があるときは父母の一方が親権を単独で行うことが可能であるとしております。
親権の単独行使が認められる、子の利益のため急迫の事情があるときとは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時に親権を行使することができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるような場合をいいます。そのため、DV被害を受けている場合はこれに当たると考えております。
また、個別の事案にもよりますが、御指摘のモラルハラスメントについても、いわゆる精神的DVに当たる場合などには、親権の単独行使が可能な場合に当たる場合があると考えております。
そして、法制審議会家族法制部会におきましては、急迫の事情が認められるのは、加害行為が現に行われているときやその直後のみに限られず、加害行為が現に行われていない間も、急迫の事情が認められる状態が継続し得ると解釈することができると確認をされております。したがいまして、暴力等の直後でなくても、急迫の事情があると認められると考えております。
このように、本改正案は、DV等からの避難が必要な場合に、子を連れて別居することに支障を生じさせるものではないと考えております。
(第213回衆議院法務委員会会議録8号)
後半の説明は、離婚した後もさることながら、離婚する前の別居の場面において重要なポイントとなりそうです。
次に、「監護及び教育に関する日常の行為」とはどのような場面を指すのでしょうか。
この点については、政府参考人の説明は次のとおりです。
監護及び教育に関する日常の行為とは、日々の生活の中で生ずる身上監護に関する行為で、子に対して重大な影響を与えないものを指しております。例えば、その日の子の食事といった身の回りの世話や、子の習い事の選択、子の心身に重大な影響を与えないような治療やワクチン接種、高校生が放課後にアルバイトをするような場合などがこれに該当すると考えられます。
(第213回衆議院法務委員会会議録6号)
以上の説明を裏返すと、子に対して重大な影響を与えることについては共同で親権を行使しなければならないということがいえそうです。
具体的には、「子の転居、子の心身に重大な影響を与える医療行為(中絶手術を含む)、子の進路に影響するような進学先の選択・入学の手続(私立小学校・私立中学校への入学や、高校への進学、長期間の海外留学など)や、高校に進学をせずに又は高校を中退して就職することなどに係る親権行使は、基本的には『日常の行為』には該当しないと考えられる。また、子の預貯金口座の開設、子に対して債務を負担させるような契約の締結、子の所有する財産の処分は、財産管理に属する行為であって『監護及び教育に関する日常の行為』には該当しない。」との解説があることから(家庭の法と裁判52号118頁)、これらについては急迫の事情がない限りは、共同で親権を行使しなければならないと考えられます。
3.共同で親権を行使しなければならない事項について意見が対立したとき
子に対して重大な影響を与えることについては共同で親権を行使しなければならないとしても、父母の意見が対立すると一向に決めることができません。
このような場合に備えて、改正民法は「特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。」と規定しています(824条の2第3項)。
ここで気になるのは、裁判所に決めてもらうとして、それに要する期間がどのくらいかかるのかという点です。
あまりに期間がかかってしまうと、膠着状態が続いてしまうのではないかという懸念があります。
このあたりは実務の運用方針等が明らかになりましたら改めて紹介したいと思います。
4.まとめ
まとめると次のようになると思われます。
【すでに離婚している人】
・現状は、単独親権制度(現行民法819条1項・2項)。
・共同親権にしたい場合には親権者変更の申し立てが必要(改正民法819条6項)。
Q.親権者変更の申立てをしたとして、どのような場合に共同親権と判断されるか?
A.こちらの記事を参照ください。
【改正民法施行日以降に離婚する人】
※改正民法の施行日は2026年5月24日までのどこかの日ですが、現時点では未定です。
・共同親権、単独親権どちらもあり得る(改正民法819条1項・2項)。
・離婚する際には、監護権者をどちらかに指定するか(単独監護)、父母で手分けして監護するか(共同監護)を定めることができる(改正民法766条1項)。
以上を踏まえると理論上は、①共同親権+共同監護(一方を監護者とする定めがない場合)、②共同親権+単独監護(一方を監護者とする定めをした場合)、③単独親権+単独監護(親権者が監護者)、④単独親権+単独監護(非親権者が監護者)、⑤単独親権+共同監護というパターンが成り立ち得るように思えます。
①共同親権+共同監護(一方を監護者とする定めがない場合)
→ⅰ子の利益のため急迫の事情があるときは、一方親が単独で親権を行使することができる(改正民法824条の2第1項3号)
ⅱ監護及び教育に関する日常の行為については、一方親が単独で親権を行使することができる(改正民法824条の2第1項3号)
②共同親権+単独監護(一方を監護者とする定めをした場合)
→ⅰ子の利益のため急迫の事情があるときは、一方親が単独で親権を行使することができる(改正民法824条の2第1項3号)
ⅱ監護及び教育に関する日常の行為については、一方親(基本的には監護親になると思われる)が単独で親権を行使することができる(改正民法824条の2第1項3号)
ⅲ監護親は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすることができ、非監護者はこれらを妨げてはならない(改正民法824条の3)
※ⅱとⅲを比較するとⅲの方が広い概念であると考えられます(ⅱは「日常の行為」という限定があるのに対し、ⅲはそのような限定がない)。
そのため、共同監護のケース(上記①)と比べると、単独監護の方が監護親が単独でできる範囲が広がると思われます。
③単独親権+単独監護(親権者が監護者)
→すべての行為について親権者(監護権者)が単独で親権を行使することができる(改正民法824条の2第1項1号)。
④単独親権+単独監護(非親権者が監護者)
※現行制度では親権者と監護権者を分ける事例がごくまれにありますが、共同親権制度が導入されてからもこのような事例が発生するかは何ともいえません。
この場合、改正民法824条の2第1項1号により非親権者には親権を行使する権限はないということになりますが、824条の3第1項により一定の事項について非親権者には親権者と同一の権利義務が発生するということになるのではないかと思います。
⑤単独親権+共同監護
※このような事例が発生するのかは何とも言えませんが、条文上は禁止されているわけではないように思われます。
この場合、改正民法824条の2第1項1号により非親権者には親権を行使する権限はないということになり、上記④とは異なり、単独監護者でもないので、親権者と同一の権利義務が付与されることもないということになるのではないでしょうか。
多くの場合は①~③のいずれかになるのではないかと思います。
ここで重要になるのは、ⅰ子の利益のため急迫の事情があるとき、ⅱ監護及び教育に関する日常の行為、ⅲ子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすること、という文言が具体的にどのような場面を指し、それには該当しない(共同で親権を行使しなければならない)のはどのような場面なのかという点です。
この点が曖昧だと現場レベルでトラブルが生じかねません。
前述した政府参考人の説明が一応の参考になりますが、できる限り当事者が揉めないように具体例や明確な基準の公表が期待されるところです。
今後、一定の解釈指針等が公に示された場合には改めてご紹介したいと思います。
☆共同親権に関する疑問点まとめ
・今後離婚する人は全員共同親権になるのか?
・夫婦の協議で共同親権にするか、単独親権にするか決まらなかった場合はどうする?
・裁判所が共同親権にするか、単独親権にするかを判断する際にどういったことを考慮するか?
→こちらの記事を参照ください。
・裁判所が共同親権にするか、単独親権にするかを判断する際、原則はどちらにするのか?
→こちらの記事を参照ください。
・夫婦(父母)が別居している事案において、裁判所が共同親権と判断するのはどういった場合か?
→こちらの記事を参照ください。
・共同親権とした場合、子どもはどちらの親と暮らすことになるのか?
・子どもと一緒に暮らす親にはどのような権限が与えられるのか?
→こちらの記事を参照ください。
・共同親権であっても単独で親権を行使できるのはどのような場面か?
・共同で親権を行使しなければならない事項について意見が対立したときはどうするのか?
・共同親権と監護権の関係性とは?
→こちらの記事を参照ください。
・現行制度と同様、親権者が決まるまで離婚することはできないのか?
→こちらの記事を参照ください。
・すでに離婚している人は共同親権とすることができるのか?
・すでに離婚している人が共同親権となるのはどのような場合か?
→こちらの記事を参照ください。
・共同親権とした場合、子どもの姓はどうやって決めるのか?
→こちらの記事を参照ください。
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