【大阪の離婚弁護士が教える】不貞慰謝料と離婚慰謝料の使い分け(二重取りができるか)

1.はじめに

前回の記事で、不貞慰謝料と離婚慰謝料の違いや関係性について説明しました。

今回は、具体的にこれらを請求する場面を想定して、誰に対してどのような慰謝料を請求するのかを解説したいと思います。

前回と同様の事例ですが、説明のために以下に示します。

夫の行動を不審に思った妻が、興信所に夫の行動調査を依頼したところ、夫が会社の同僚(女性)と不倫関係にあることが判明した。

そこで、妻は、不貞相手の女性に対して、慰謝料請求をすることにした。

さらに、妻は不貞行為に及んだ夫のことが許せず、離婚を決意し、夫に対しても慰謝料請求をしようと考えた。

この事案において、妻が慰謝料を請求する対象は不貞相手と夫の2名です。

それぞれ分けて解説していくことにします。

※以下では、前回の記事を読んでいただいていることを前提に解説を進めます。

2.不貞相手に対する請求

まず、不貞相手に対して慰謝料を請求する場合は、不貞慰謝料を請求するのが実務上は、一般的です。

しかし、前回の記事で、離婚慰謝料の方が不貞慰謝料よりも高くなる可能性があることを示唆する文献を紹介しましたが、もし少しでも高くなる可能性があるのであれば、離婚慰謝料を請求したいところです(ただし、不貞慰謝料よりも離婚慰謝料の方が必ず高くなるとまではいえないと考えられますので、その点はご注意ください)。

また、不貞慰謝料の消滅時効の起算点は不貞行為の事実と不貞相手を知った時からであるのに対し、離婚慰謝料の消滅時効の起算点は離婚時です(最判昭和46年7月23日民集25巻5号805頁)。

したがって、不貞慰謝料では時効にかかっているけれども、離婚慰謝料であれば時効にかかっていないという事案であれば、なおさら離婚慰謝料でなければならない理由があるといえます。

では、冒頭の例のように、離婚に至る事案であれば、不貞相手に対して離婚慰謝料を請求することができるのでしょうか。

この点に関しては、最高裁は次のように判示しています(最判平成31年2月19日民集73巻2号187頁)。

 夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
 夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
 したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
 以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。

つまり、特段の事情がない限りは原則として不貞相手に対して離婚慰謝料を請求することはできないということです。

ということで、通常の不貞の事案であってなおかつ消滅時効の点も問題にならないのであれば、不貞相手に対しては通常は不貞慰謝料を請求することになります。

3.配偶者に対する請求

冒頭の例のように離婚する事案であれば、配偶者に対しては、不貞慰謝料、離婚慰謝料いずれでも請求することが可能で

ただ、実務上は配偶者に対しては離婚慰謝料を請求するのが一般的です。

ちなみに、夫婦が離婚しない事案の場合は、離婚しない以上、当然ながら配偶者対して離婚慰謝料を請求することはできませんが、それだけでなく配偶者には不貞慰謝料すら請求しないことが多いように思われます。

その理由としては、夫婦の財布は一つと考えると、離婚しない夫婦間で慰謝料のやり取りをしたとしても、あまり意味がないと考えられる中で、配偶者から慰謝料を受け取ると、不貞相手からは慰謝料を受けることができない、あるいは減額されるおそれがあるためです。

ということで、離婚しないのであれば、不貞相手だけに対して不貞慰謝料を請求するケースが多いということになります。

4.不貞相手からの慰謝料と配偶者からの慰謝料の関係(二重取りはできるのか)

冒頭の例に話を戻すと、妻は不貞相手に対して不貞慰謝料を請求することもできるし、夫に対して離婚慰謝料(あるいは不貞慰謝料)を請求することもできます。

では、両方に請求したら、慰謝料を二重取りできるのかというと、必ずしもそういうわけではありません。

これは、不貞相手から不貞慰謝料の支払いを受けると、その分、配偶者に対する離婚慰謝料は減らされる又はなくなる関係にあるためです(『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』新日本法規284頁)。

たとえば、冒頭の例でいうと、妻が不貞相手から200万円の不貞慰謝料を受け取ったとすると、以前の記事で説明したとおり、この200万円という金額は離婚慰謝料の相場からするとおかしな額ではないと考える余地があります。

そうすると、妻はさらに夫から離婚慰謝料を受け取ることはできないということになります。

とはいえ、不貞相手が支払った不貞慰謝料で足りない分を離婚慰謝料として認めた裁判例も存在します。

東京地判令和4年7月29日令和3年(ワ)8323号は次のように判示します。

ア 証拠によれば、被告Y2は、訴外Aと、少なくとも平成29年4月頃から令和元年5月頃までの間、月1回程度の頻度で不貞行為を行ったことが認められる(前記前提事実(8)、(13)、被告Y2・5頁)。そして、原告と被告Y2は令和元年11月16日に協議離婚しているところ、同年6月18日に被告Y2と訴外Aとの間の不貞行為の存在が原告に発覚する以前に、原告と被告Y2との婚姻関係が客観的に悪化していたことをうかがわせる事情はなく、被告Y2自身が自認しているように(答弁書8頁)、原告と被告Y2の主要な離婚原因は、被告Y2と訴外Aとの不貞行為であるものと認められる。
 この点、被告Y2は、原告に起因する離婚原因も存在するとして、前記第2.2(1)(被告Y2の主張)ア(ア)ないし(カ)記載の各事情を主張する。しかし、このうち、訴外Aとの不貞行為が発覚する以前の事情である(ア)ないし(エ)については、確かに、原告自身、前記認定事実(1)記載の被告Y2に対する手紙の中でその一部につき自認しており、不貞行為の発覚以前から被告Y2がこれらの事情の少なくとも一部について不平不満を抱いていて、原告自身もそのことを認識していたことがうかがわれるが、いずれの事情もそれ自体で婚姻関係の維持を困難ならしめるものとは評価しがたく、被告Y2が不貞行為発覚以前にこれらの事情を理由に離婚を求めたこともないというのであるから(被告Y2・14、15頁)、離婚の直接の原因とは認めがたい。
 また、被告Y2は、原告が、令和元年6月18日の夜に被告Y2の携帯電話を奪おうとした際、被告Y2に対して暴力を振るい傷害を負わせた旨主張する。確かに、甲11-2添付の診断書及び被告Y2の写真によれば、被告Y2が原告の行為によって傷害を負ったことが推認されるものの、被告Y1あるいは訴外Aとの親密な関係をうかがわせるLINEメッセージを見つけた原告が、被告Y2のLINEの履歴等を確認するために同人の携帯電話を奪おうとしたこと自体はやむを得ない面があるうえ、傷害についても、被告Y2の供述(被告Y2・2頁)を前提としても、原告が携帯電話を奪おうとして被告Y2ともみ合いになった際に偶発的に生じた可能性も排斥できず、原告が積極的、意図的に被告Y2に暴行を加え、傷害を負わせたとまでは認めがたい。
 被告Y2が離婚原因であると主張する、上記傷害の事実を含む前記第2.2(1)(被告Y2の主張)ア(オ)及び(カ)記載の各事情に関しては、前記認定事実(3)記載の事実並びに乙28に照らすと、別居後、原告自身、被告Y2に対する未練があり、同人との関係を修復させようとしていたものの、被告Y2と被告Y1及び訴外Aとの間のLINEメッセージの内容が発覚して以降の原告の言動や、さらには被告Y2自身が従前から有していた原告に対する婚姻生活上の不満が、被告Y2の離婚の決意を後押しし、婚姻関係を修復するに至らなかった面があることは否定しがたい。もっとも、別居それ自体及び別居前後の原告の言動は、結局のところ被告Y2の不貞行為を原因として生じた事態であるうえ、被告Y2の訴外Aとの不貞行為が2年以上に及び、その頻度も決して低くないといった、被告Y2の行為の違法性の大きさに鑑みると、被告Y2が離婚原因として主張する事情はいずれも慰謝料額を大きく下げる要因とは認めがたい。
 イ 以上を前提に離婚自体慰謝料の金額を検討すると、被告Y2と訴外Aとの不貞行為が原告と被告Y2との離婚の主たる原因であることに加え、前述した不貞行為の期間・回数、原告と被告Y2の婚姻期間が7年以上に及び、決して短くはないこと、他方で、訴外Aとの不貞行為それ自体に基づく慰謝料については、訴外Aが、別件訴訟の判決に基づき慰謝料200万円を支払済みであり、被告Y2もその半分の100万円について負担していること(なお、これは、後述のとおり、被告Y2の弁済の抗弁を認める趣旨ではない。)等も総合的に考慮して、原告の被告Y2との離婚自体の慰謝料としては、100万円と認めるのが相当である。

つまり、不貞相手から原告(注:夫)に対して不貞慰謝料200万円が既に支払われていたが、さらに原告が被告(注:妻)に対して離婚慰謝料を請求した事案において、裁判所は被告に対して離婚慰謝料100万円の支払いを命じたということです。