【大阪の離婚弁護士が教える】キスや抱き合うといった行為を理由に慰謝料請求できるか?

1.はじめに

前回の記事で、デートをしたことやキスしたことは認定したものの、社会的相当性を逸脱したものとまではいえず、不法行為は成立しないとした裁判例(東京地判平成28年11月30日)を紹介しました。

今回は、この問題に焦点を当てて、キスなどの行為があったものの肉体関係があったことまでは立証できない事案について、さらにいくつかの裁判例を見てみたいと思います。

 

2.慰謝料を認めた事例

【東京地判平成28年9月16日】

 2 争点(1)(不法行為の成否)及び争点(2)(慰謝料額)について
  (1) 不法行為の成否
   ア 前記認定事実を踏まえて、被告とAが肉体関係を持っていた事実の存否について検討すると、両者は、平成25年12月以降、二人で食事やカラオケに出かけ、また、休日に自動車に乗って外出し、その際に、腕を組んだり、手をつないだりして歩いていた(認定事実(3))のみならず、平成27年5月又は6月ころに交際を終了するまでの間に、抱き合ったり、キスをしたりしたほか、Aが服の上から被告の体を覗き見し、又は、服の上から被告の体を触ったこともあったのである(認定事実(10))から、その交際は相当親密なものであったと考えられる。
 しかし、Aと被告の双方が肉体関係を持ったことを明確に否定している(乙1、証人A)上、原告が探偵に依頼して300万円程度をかけて繰り返し行った調査によっても、肉体関係の存在を明らかにする事実は確認されなかったこと(甲11、12、19の1ないし19の4、原告本人)などからすると、前記のとおり、被告とAとの交際が相当親密なものであったことを十分に斟酌しても、両者が肉体関係を持っていたと断じるには、なお合理的な疑いが残るというべきである。この点、原告がAの携帯電話の予測変換機能を用いて再現したという電子メールの文面(甲9)には、「脱ぐと近くに感じる」という被告がAの面前で服を脱いだことを想起させる文言が存在するが、予測変換機能を用いて作成されたという作成経過自体が、真にAが当該文面を作成していたのかにつき重大な疑義を生じさせる。Aは、そのようなメールを作成した記憶はない旨の証言をしており、当該文面が真にAによって作成されたものであるのか否か判然としないというほかない。
 結局のところ、被告とAが肉体関係を持っていた疑いは払しょくし切れないものの、肉体関係が存在したとまで認めるに足りる証拠は存在しないといわざるを得ない。
   イ もっとも、被告とAとの交際は、平成25年12月以降、1年半近くにわたって継続していた(認定事実(3)、(10))上、肉体関係が存在していたとまでは認められないものの、前記のとおり、抱き合ったり、キスをしたりしていたほか、Aが服の上から被告の体を触ったこともあったのであるから、その態様は、配偶者のある異性との交際として社会通念上許容される限度を逸脱していたといわざるを得ない。被告は、Aに配偶者がいることを認識しつつ(認定事実(2))、Aとの交際を継続していたのであるから、被告の行為は、交際相手の配偶者である原告との関係において、不法行為を構成するというべきである。
  (2) 慰謝料額
 被告による不法行為の態様、原告とAの婚姻期間のほか、原告とAとは夫婦円満を内容とする調停を成立させた上で現在も婚姻関係を継続していることなど(原告は、被告の対応が不誠実であったとして問題とするようであるが、本件の証拠上認められる交際の態様を前提とする限り、慰謝料額の算定に当たって、被告の対応の状況を重視することはできない。)、本件に関する一切の事情を考慮すると、被告の不法行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は50万円とするのが相当である。
 3 よって、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、50万円及びこれに対する不法行為の後である平成26年10月12日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

➣手をつなぐ、キスをするなどの行為を認定した上で、肉体関係の存在を認める証拠まではないものの、不法行為を構成するとして慰謝料50万円の支払いを命じた。

  

3.慰謝料を認めなかった事例

【東京地判平成28年9月13日】

  (3) 不貞行為の有無についての判断
   ア 原告は、被告とAが、平成26年秋頃には、不貞行為に及んでいたと主張するところ、確かに、前記認定の同年9月29日におけるやり取りは、被告を前提とするものであると認められるし、被告との交際について、Aが積極的には否定していない様子が窺えることや前記認定の被告とAとのメールのやり取りの内容からしても、少なくとも平成25年7月から10月頃には、被告とAが相当に親しい関係にあったことは十分に窺われる。
   イ しかしながら、本件においては、以下の点も指摘することができる。
 (ア) まず、本件において、被告とAが、具体的に性的関係を持ったことを直接裏付けるメールや写真等の証拠は提出されていない。
 前記認定のとおり、原告は、AのiPadにおける被告とAとのメールのやり取りを全て確認した上で、必要なメールを写真撮影したことが認められるところ、このような原告の行動からすれば、被告とAとの間で交わされたメールの中には、両者の間で不貞行為が行われたことを示すような内容のメールが本件において書証として提出されたもの以上には存在しない可能性が高く、被告とAとの間で、不貞行為があったことを窺わせる行動を裏付けるようなメール等が確認できなかったことは否定できないのであり、そのこと自体、被告とAとの間の関係が親しい友人という関係を越え不貞行為がなされたとまでいえるかということについて疑問を抱かせるものといえる。
 また、本件において書証として提出された被告とAとのメールは、いずれも平成25年7月から11月初旬にかけてなされたものであるところ、それ以降のやり取りについてはこれを認めるに足りる証拠はなく、そもそも同月以降における被告とAとの交際状況が具体的にどのようなものであったかについても判然とせず、同月以降に不貞行為がなされたと推認させるべき事情もない(なお、前記認定のとおり、Aの代理人も平成26年秋に交際が発覚したことは認めたものの、その時期等については明言していない。)。
 (イ) また、被告とAとのメールについても、前記認定のとおり、「あなたを愛することを止められない」や「あなたのキスが欲しい」など、少なからず被告がAに対して好意を持っていることを窺わせるやり取りがされている。これに関して被告は、本人尋問において、前者のメールについては、Aの好意に対するけん制という趣旨であり、後者については、励ましが欲しいという趣旨である旨供述するところ、後者のメールについてはともかくとしても、前者のメールについては、そのようなメールを送信することがどのようにAに対するけん制になるのか判然としないものであり、説得的とは言い難い。
 しかしながら、この記載から直ちに被告とAとの間で、不貞行為がなされたとまでは推認できない上に、被告は本人尋問において、Aから借りていたヘルメットを返却した際に、本件メール1の趣旨について説明したと供述するところ、被告とAが本件メール1を送信した後にもメールのやり取りをしていたことからしても、その供述の信用性は否定しがたく、前記(1)及び(3)イ(ア)で認定・説示したとおり、本件において被告とAとが不貞行為に及んだことを直接裏付ける証拠がないことからしても、本件発言をもって、被告とAとが不貞行為に及んでいたとは推認することはできない。また、被告がクラミジアにり患したかもしれないとのメールをAに送信したこと(甲13)についても、それのみでは不貞行為を推認させるものといえず、また、その前後の内容からすると唐突に送信されていることからしても、誤送信の可能性もないとはいえないため、採用できない。
 (ウ) さらに、平成26年9月末日頃における原告とAとの会話についても、当該会話内容には、被告とAが不貞行為に及んだことを直接認める部分はないし、確かに、原告が、「じゃあみんな知ってたんだ。あなたとY(被告)が付き合っていたのって」と話した後に、特にAがその内容を訂正した様子もないものの、その会話内容は、全体としてみれば、平成25年6月頃に、被告とAが知り合った経緯について話されており、原告のいう「付き合う」という言葉の意味をAが不貞行為(性行為)と考えていたかも判然としないのであり、この会話内容から被告とAが不貞行為に及んだことを推認することはできない。
 (エ) 加えて、原告は、原告とAとの調停手続において、Aが平成26年秋に特定の女性との交際を認めた旨主張し、確かに、前記認定のとおり、そのような事実も認められるし、前記認定の平成26年9月末頃における原告とAとの会話内容が専ら被告とAとの関係について言及するものであることからしても、原告とAとの調停事件の答弁書にある「特定の女性」とは被告である可能性は高いといえる。
 しかしながら、ここにいう「交際」の定義自体あいまいなものであるし、前記認定の平成26年9月末頃における原告とAとの会話からしても、Aが被告と性行為に及んだことまでも認めるものではなく、被告とAとの間で、キスや抱きしめる行為があったとしても、その詳細な態様等は被告とAのメールからは判然とせず、同人らの生活歴等からしても、あいさつ程度にこれらの行為が行われたことは否定できないのであり、Aの代理人の上記対応から被告とAとの不貞行為を推認することはできないというべきである。なお、原告は、ここにいう「交際」が離婚原因となるものであることから性交渉を伴うものであることは明らかであると主張するが、証拠(甲8)によれば、Aとしても原告との離婚については合意していることが認められ、Aとしても、離婚の当否及び離婚原因たる不貞行為の存否について強く争う意向を有していないとも考えられ、そのようなAの主張の状況からすれば、上記の「交際」という文言が不貞行為を伴うものと原告が認識していたとしても、Aの認否がそのような意味での交際を認めるものであるかは必ずしも明らかではないのであり、この点に関する原告の主張を採用することはできない。
   ウ 以上のとおり、原告が被告とAとの間で不貞行為がなされたことを裏付けるものと主張する事実関係等については、いずれもそれらのことから直ちに被告とAとの不貞行為の存在を推認することができないものといえ、他に、被告とAとの間で不貞行為がなされたことを認めるに足りる証拠はない(なお、Aが被告との不貞行為を認めたとの原告の供述が採用できないことは、前記(2)で説示したとおりである。)。
  (4) 小括
 以上で検討したとおり、被告とAとの間で不貞行為がなされたとは認められないことから、その余の争点について検討するまでもなく、原告の請求には理由がないことになる。

➣キスや抱きしめる行為があったとしても、その詳細な態様等はメールからは判然とせず、同人らの生活歴等からしても、あいさつ程度にこれらの行為が行われたことは否定できないとして不法行為の成立を認めなかった。

 

【東京地判平成28年12月28日】

 3 争点(1)(被告の不法行為責任の成否)について
 上記認定事実によれば,被告はAと平成27年3月12日に初めて会ってともに飲食し,帰り際に路上で抱き合うようにして2回キスをしたが,これ以降再び会うことはなかったことが認められる。上記キスについては,証拠上,1回目,2回目ともに3,4秒間程度の長さより長いものであったことや原告の主張するようなディープ・キスであったと認めるに足りる証拠はない。
 そうすると,被告とAとの間に性交渉があったとは認められず,また上記行為の内容に照らせば,被告の同年3月12日の行為が原告の平穏な婚姻関係を害するものとして不貞行為ないし不法行為に該当すると認めることはできないといわざるを得ない。
 原告は,被告がAとの間で上記のとおりキスをしたことによって,原告とAの間の夫婦関係は完全に破たんしたのであるから,当該被告の行為は原告の平穏な婚姻関係を害するものである旨主張する。しかしながら,原告が上記キスの場面の動画に衝撃を受け,Aとの離婚を決意したのは,それまでにAが別の男性とラブホテルに入ったとの事実を知って,上記のとおり夫婦関係が破たん寸前の危機的状況に陥っていたため,本件被告の行為が夫婦関係の崩壊にいわばとどめを刺すような形になったことによるといえる。原告がAの上記不貞の事実を認識した際には,それのみでは直ちに離婚に踏み切れなかったことからしても,それより程度の軽いキス行為が平穏な婚姻関係を害する蓋然性のある行為ということはできないことは明らかである。
 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の被告に対する損害賠償請求は認められないというほかない。

➣キスの存在は認定したものの、不法行為に該当するとはいえないとした。

 

4.まとめ

以上のとおり、慰謝料を認める事例、認めない事例いずれもありますが、キスなどのかなり親密な行為があったとしても肉体関係が認められない場合には、慰謝料が認められないことも相応にあるということを知っておく必要があるといえます。

また、仮に慰謝料が認められるとしても、慰謝料額は相当低額になると考えられます。

 

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