【大阪の離婚弁護士が教える】父親に子どもを引き渡すよう命じた事例

※一審は父親に子どもを引き渡すよう命じた事例ですが、抗告審で覆っていますので、その点はご注意ください。

【横浜家裁令和2年11月12日審判】

1 認定事実
  本件記録によると、次の事実が認められる。
  (1) 申立人(昭和50年●●月●●日生)と相手方(昭和53年●●月●●日生)は、平成17年1月1日に婚姻し、平成18年●●月●●日に長女を、平成21年●●月●●日に二女(以下、長女と併せて「未成年者ら」という。)をそれぞれもうけたが、平成28年10月29日、未成年者らの親権者を申立人と定めて協議離婚した。
  (2) 申立人は、協議離婚後、未成年者らと共に、引き続き、●●●(以下「Eの自宅」という。)で生活していた。相手方は、同年11月9日、申立人の意に反することを承知していたことから、申立人が出張のためEの自宅を不在にしている間に、未成年者らを、住所地である相手方の父母宅に連れて行き、以降、相手方の父母宅で未成年者ら及び相手方の父母と共に生活している。(甲15、16)
  (3) 申立人と相手方は、未成年者らの引渡し、親権者の指定の経緯及び面会交流などで対立を深めた後の平成29年10月31日、別紙「調書(成立)」記載のとおりの調停条項(以下「前件調停条項」という。)に合意したことから、調停が成立した(甲1、10、16、26、乙1ないし6)。
  (4) 以降、申立人と未成年者らは、令和元年6月29日まで、前件調停条項を拠り所とし、交流を実施した(甲5、24)。しかし、同日以降、申立人と未成年者らの交流は実施されていない。相手方は、未成年者らの抱く申立人との交流に対する抵抗感などから交流が実施されていないと主張する。(相手方代理人弁護士作成の令和2年8月19日付け第1準備書面の4頁)
  (5) 令和元年6月29日までに実施された交流は、申立人と相手方との葛藤が続くなか、途中からは、相手方の意向により、申立人と未成年者らが日程調整などをすることにより実施されたものであった(甲20、21、乙12)。
  申立人と相手方との葛藤は、現在も続いている(乙16。枝番を含む。)。
  (6) 相手方の監護状況は、申立人と相手方が、前件調停条項に合意した時から変りない。申立人も、相手方の監護や未成年者らの状況に関する問題点の指摘をするものでない。(乙12の15頁)
  (7) 申立人は、令和元年9月、相手方の父母宅から徒歩3分程度に位置する住所地(以下「申立人の自宅」という。)に引っ越した(相手方代理人弁護士作成の令和2年8月19日付け第1準備書面の3頁)。申立人の自宅は、間取が3DKの賃貸マンションであり、未成年者らと生活するのに十分な広さがある(甲2)。また、監護補助者として、申立人の自宅から車で1時間程度の場所に居住する親戚がいる(甲22)。申立人は、未成年者らが、申立人と相手方の間を自由に行き来できる状態を目標としており、申立人と共に生活することになっても、相手方や相手方の父母との交流が途切れることはないと述べている(申立人作成の令和2年8月11日付け主張書面(1)の3頁、申立人作成の令和2年9月22日付け主張書面(2)の7頁)。
  (8) 未成年者らの心情について、平成29年3月21日付け調査報告書(横浜家庭裁判所平成28年(家)第3141号、同第3142号子の引渡し事件の調査報告書。甲4、10)を作成した家庭裁判所調査官は、未成年者らに申立人への拒否的な感情があるとしたら、(平成28年11月9日の)転居後に増大したと考えるのが自然であるし、紛争に巻き込まれ、申立人に否定的な感情を表明せざるをえない心境に置かれている可能性が考えられると指摘する。
  また、令和2年1月30日付け調査報告書(横浜家庭裁判所平成31年(家イ)第369号、同第370号子の監護者の指定事件の調査報告書。甲13、乙13)を作成した家庭裁判所調査官は、未成年者らは相手方の下での生活を肯定的に受け止めており、この生活を続けることを望んでおり、未成年者らは、申立人が未成年者らの意思を尊重してくれないと感じており、申立人との同居はおろか、交流することにすら消極的であると指摘する。
  さらに、令和2年3月30日付け調査報告書(横浜家庭裁判所平成31年(家イ)第369号、同第370号子の監護者の指定事件、令和2年(家イ)第45号、同第46号子の引渡し事件の調査報告書。甲25、乙14)を作成した家庭裁判所調査官は、未成年者らは、申立人が未成年者らの意思や希望を尊重してくれないと感じており、また、申立人と未成年者らのやり取りにより相手方の体調も崩れるとして、現時点では申立人との交流を拒否しているが、未成年者らの話によると、申立人が未成年者らの希望や意見を一切受け入れていないとまでは言えず、申立人の対応に問題があるとしても、言い方や態度の配慮不足といった次元の問題であると考えられると指摘する。
  (9) 未成年者らは、申立人と別居した平成28年11月9日以降、令和2年6月29日まで、申立人と笑顔で交流していた(甲5、24)。
 2 判断
  (1) 上記認定事実によると、未成年者らの親権者は申立人であって、相手方にあるのは、前件調停条項3項以降の面会交流が実施されることなどを前提として、未成年者らの福祉に配慮して当面の間、申立人から委ねられた未成年者らの監護であると認められる。
そして、この前提である申立人と未成年者らの面会交流が実施されないことから、申立人が、相手方に対し、未成年者らの監護を委ねることをせず、自身が監護するために未成年者らの引渡しを求めているのであるから、未成年者らの引渡しを認めれば、未成年者らの福祉に反することが明らかな場合など特段の事情がない限り、相手方は、未成年者らの引渡しを拒むことができないというべきである。
  (2) 上記認定事実によると、申立人は、未成年者らの環境を変化させないよう、未成年者らと相手方や相手方の父母との交流が途切れることがないよう、Eの自宅から、相手方の父母宅から徒歩3分程度に位置する申立人の自宅に引っ越して未成年者らの居住環境を整え、監護補助者の援助態勢を整えたものである。
  そして、未成年者らは、このまま相手方との生活を続けることを望み、また、現時点では申立人との交流を拒否しているものの、申立人と別居した平成28年11月9日以降、申立人と相手方との葛藤が続くなか、未成年者らは、この葛藤に巻き込まれてきたのであるから、引き続き、申立人に否定的な感情を表明せざるをえない心境に置かれている可能性が考えられるし、未成年者らが、申立人との同居はおろか、交流することにすら消極的であることの要因である、申立人が未成年者らの意思を尊重してくれないと感じる申立人の対応は、言い方や態度の配慮不足といった次元の問題にとどまる。そのため、上記認定事実によると、未成年者らの引渡しを認めれば、未成年者らの福祉に反することが明らかな場合などといった特段の事情は認められないのであるから、相手方は、未成年者らの引渡しを拒むことができないというべきである。

すでに離婚している夫婦の事案です。

離婚時に親権者は父親とされたものの、現状は子どもは母親と暮らしているという状況にあったところ、一審は母親に対して、子どもを父親に引き渡すよう命じました。

しかし、抗告審は次のように判断しました。

 

【東京高裁令和3年5月13日決定】

 3 判断
  (1) 本件においては、未成年者らの親権者は相手方である一方、抗告人は、前件調停条項2項により、未成年者らの監護を委ねられている。
  相手方は、前件調停条項においては、面会交流の実施が抗告人に未成年者らの監護を委託する前提とされているところ、抗告人が前件調停条項で取り交わした約束を守らないため、面会交流は前件調停条項どおりに実施されておらず、特に令和元年6月29日より後は面会交流が全く実施されていないから、抗告人への監護の委託を解除し相手方自身が監護するとして、未成年者らの引渡しを求める。そして、親権者である相手方が監護権を有しない抗告人に対し未成年者らの引渡しを求めているのであるから、この引渡しを認めれば未成年者らの福祉に反することが明らかであるなど、特段の事情がない限り、抗告人は未成年者らの引渡しを拒むことはできないと主張する。
  しかし、前件調停条項上、面会交流の実施要領はある程度の幅をもって定められ、当事者双方はその円滑な実施に協力し、その際、未成年者らの意向、学校及び塾等の予定に配慮するとされているところ、長女は中学受験をして平成30年4月から私立中高一貫校に進学し、二女も中学受験をし、2人とも塾に通うなどしていたほか、学校の行事予定が直前になって決まるなどして、日程調整等は円滑に進まず、前件調停条項に定められた月1回ないし2回程度、年間10泊以上の宿泊を実施するまでには至らなかったものの、平成29年(前件調停が成立したのは同年10月31日である。)は日帰りの面会交流が2回、平成30年は宿泊を伴う面会交流が6泊、日帰りの面会交流が8回、平成31年(令和元年)は6月29日までに宿泊を伴う面会交流が6泊、日帰りの面会交流が6回実施されている(前記認定事実(6))。面会交流の際に日程調整等について相手方と抗告人との間で重ねられたやり取り(甲12、20、21、37、38、乙38~40)をみると、抗告人には、面会交流の実施に積極的でないところも見受けられるものの、未成年者らの学校の行事予定等がなかなか決まらず、日程調整が難航したり、前件調停条項の解釈を巡って議論になったり、お互いの態度について非難の応酬になるなどしており、専ら抗告人の意向によって日程調整等が円滑に進まなかったとまでは認められないから、令和元年6月29日までの面会交流については、月1回ないし2回程度、年間10泊以上の宿泊を伴う面会交流を実施できなかった責任が主として抗告人にあるとはいえない。その後は、面会交流はほぼ途絶えている(前記認定事実(8)、(12))が、相手方は、その頃、未成年者らが嫌がったのに、その反対を押し切って、抗告人の父母宅から徒歩3分という直近にある相手方の自宅に転居したところ(前記認定事実(7))、抗告人方で平穏に生活していた未成年者らにとって、相手方のこの行為が大きなストレスとなったことは自明であり、このことがその後面会交流が行われなくなった主な原因であると認められるから、面会交流が行われなくなった責任が主として抗告人にあるとはいえない。したがって、相手方は、前件調停条項における抗告人への未成年者らの監護の委託を解除することはできず、抗告人は、現在でも相手方から監護を委託されているというべきである。相手方の上記主張は採用できない。
  (2) そこで、抗告人が相手方から未成年者らの監護を委託されていることを前提に、相手方に未成年者らを引き渡すべきか否かについて検討する。
  ア 抗告人による監護状況
  抗告人は、前件調停成立後3年以上にわたり、前件調停条項に基づいて未成年者らを監護しており、抗告人による未成年者らの監護状況について、格別問題は認められない。相手方も、抗告人による監護状況それ自体に問題があるとは主張しておらず、基本的に面会交流の実施に関する問題を主張しているにとどまる。
  イ 父又は母との親和性、子の意思
  長女は、令和3年●●月●●日に満15歳となり、現在高校1年生である。二女は、同年●●月●●日に満12歳となり、現在中学1年生である。両名とも、年齢相応の発育状況にあり、自らの意見を言語化して表明することができている。
  未成年者らは、2人とも、抗告人に対する親和性を示す一方で、相手方に対しては、同人の一方的な言動や未成年者らの意見を聞こうとしない態度等への嫌悪感を示し、同居したくないと述べるところ、その理由に挙げられている事柄は、相手方の言い方や態度の配慮不足といった次元の問題として理解できるものもあり、また、そもそも、未成年者らの相手方への拒否的な感情は、未成年者らが抗告人の父母宅に転居した後に増大したと考えるのが自然であり、抗告人と相手方との間の紛争に巻き込まれ、相手方に否定的な感情を表明せざるを得ない心境に置かれている可能性が考えられる(前記認定事実(10))。しかし、相手方は、令和元年8月末頃、未成年者らの反対を押し切って、抗告人の父母宅から徒歩3分という直近にある相手方の自宅に転居しており(前記認定事実(7))、抗告人方で平穏に生活していた未成年者らにとって、この行為が大きなストレスとなることは自明であるにもかかわらず、その点の配慮がなく、また、思春期に入っている未成年者らの心情に配慮しようとする態度がみられないなど、相手方の言動をみると、自らの判断や考えを強く主張する一方で、主張される側の状況や受け止め方には考えが及んでいない様子がうかがわれ、未成年者らが述べる事柄を、父母の紛争に巻き込まれて父に否定的な感情を表明しているだけであるとか、単に相手方の言い方や態度の問題であるとして片づけられないところもあり、未成年者らが相手方の監護下に入るのは困難な状況である。相手方には、自らの言動を謙虚に省みて、未成年者らの心情をありのままに受け止め、未成年者らの立場に立って関わり方を見直していくことが求められる。
  相手方は、未成年者らが相手方に接触する機会が増えれば、未成年者らと相手方の関係性は回復できる旨主張する。しかし、上記の未成年者らの現在の心情、そのような心情に至った経緯からすると、相手方がこれまでと同じような態度で未成年者らと強引に接触しても、関係性の回復は望めない。
  ウ 子と他方の親との面会交流の許容性
  相手方は、抗告人が相手方との高葛藤状態から面会交流の実現に向けて協力しようとせず、未成年者らを説得しようともしないため、その雰囲気が未成年者らにも影響し、面会交流に消極的になって、令和元年6月29日までの間も、面会交流の回数や時間等は必ずしも前件調停条項の定めどおりとはなっていないし、同日以降は面会交流が全く実施されなくなり、令和3年2月22日の面会交流でも上記影響がみられたとして、抗告人は未成年者らの監護者としての適格性を欠くと主張する。
  しかし、上記(1)において説示したとおり、未成年者らと相手方との面会交流が円滑に実施できていない責任が主として抗告人にあるとはいえないから、このような面会交流の実施状況をもって、抗告人が未成年者らの監護者としての適格性を欠くとまでいうことはできない(ただし、この判断は、面会交流が実施されない状況を是認するものではなく、未成年者らの健全な成長のためにも、相手方との面会交流が適切に実施されることが必要不可欠であるから、上記イで説示したとおり、相手方には、自らの言動を謙虚に省みて、未成年者らの立場に立って関わり方を見直していくことが求められる一方で、抗告人には、未成年者らに対し、相手方と面会交流をすることの意義及び相手方の未成年者らに対する思いを適切に伝えて、面会交流の実施に向けて説得に努めることが強く求められる。そして、相手方と抗告人には、日程調整等がより円滑に進められるよう、互いに協力するとともに、必要があれば取決めの改善を図ることが求められる。)。
  (3) 以上によれば、抗告人による現在の監護状況について、格別問題は認められず、未成年者らは、2人とも、抗告人に対する親和性を示す一方で、相手方に対しては、同人の一方的な言動や未成年者らの意見を聞こうとしない態度等への嫌悪感を示し、同居したくないと述べ、未成年者らが相手方の監護下に入るのは困難な状況である。これらの点を総合考慮すると、子の福祉の観点から、現時点において、未成年者らを相手方に引き渡すのは相当ではない。
  したがって、相手方の申立てはいずれも却下すべきである。
 4 よって、相手方の申立てをいずれも認容した原審判は相当でなく、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消し、相手方の申立てをいずれも却下することとして、主文のとおり決定する。

こうして、抗告審では、母親が引き続き子どもを監護することを肯定し、父親への子どもの引渡を認めませんでした。

 

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