【大阪の離婚弁護士が教える】父親が監護者に指定された事例③

【一審(福岡家裁八女支部平成28年11月30日審判)】

2 監護者の指定について
(1) 子の監護をすべき者を指定する場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない(民法766条1項類推適用)。この子の利益に合致するか否かを判断するに当たっては、一般的には、従前の監護状況、現在の監護状況や父母の監護能力(健康状態、経済状況、居住・教育環境、監護意欲や子への愛情の程度、監護補助者による援助の可能性等)、子の年齢や心身の発育状況、父母及び監護補助者との親和性、子の意思等を総合して考慮するのが相当である。そして、現在のみならず、将来をも通じて子の利益に合致するか否かを慎重に判断しなければならない。そこで、以下、検討する。
(2) 従前の監護状況
 前記認定事実によれば、未成年者の主たる監後者は相手方であった。
(3) 現在の監護状況、双方の監護能力及び監護態勢等
 前記認定事実によれば、現在、未成年者は相手方の下で監護養育され、後述するB会の問題を除けば、その監護状況や高校における生活状況には、特段の問題は認められない。むしろ、本件記録から認められる未成年者の母に対する想いはもちろんのこと、相手方の下を離れた二女や長男でさえ母である相手方を慕い、相手方が、早くB会を離脱し、元の明るい相手方に戻るよう切望している様子からすると、相手方は、本来は子供想いの愛情深い母親であるといえる。他方、証拠から認められる父の監護態勢にも特段の問題は見当たらない。ただし、前記認定のとおり、未成年者の学校行事や保護者面談等の大半は相手方が対応していたほか、従前、申立人は、仕事から帰宅してもすぐに自室に籠り、未成年者らと会話することもほとんどないといった状態が続いていたことを考慮すると、申立人の監護能力は、実績の点では相手方に大きく劣るといわざるを得ない。
 しかし、相手方の監護能力にも、現在原因不明の構音障害により休職中であり、物理的な居住環境も未成年者の通学する学校から遠く離れた1Kの賃貸マンションに3人で同居するなど申立人宅に比して良いとは言い難く、不安要素がある。何より、未成年者は、相手方が熱心に参加するB会の集会などにおいてKによる暴行行為を度々目にしており、かかる環境が未成年者の福祉を害することは明らかである。しかも、未成年者は「Kが頬を叩くのは、参加者側に報告を怠る等の落ち度があるからであり、仕方のないことだと思う。」と述べるなどしている。我が国では暴行行為や傷害行為は違法な行為であり、たとえ参加者がKに対する報告を怠っていたとしても、かかる理由による暴行行為は社会的相当性がなく到底許されるものではないことに照らすと、未成年者のかかる価値観の変容は、社会的な許容限度を超える程度にまで至っているというほかない。しかるに、前記認定事実のとおり、相手方は、現時点ではKの指示に盲従しており、相手方と同居する長女についても未成年者のかかる価値観を矯正できる状況がうかがえず、他方で、申立人はもとより二女、長男との面会交流すらも全く拒絶されている現状に鑑みれば、問題性を有する未成年者のかかる価値観を矯正する機会は、現時点では見当たらない。
(4) 子の意向
 未成年者は、現在17歳の女子であるところ、母である相手方との同居を強く望んでおり、父である申立人による監護を受けることを拒絶している。ただし、その主たる要因は、これまで監護を担ってきたのは母である相手方であり、未成年者の話や悩みに耳を傾けてくれていたのも相手方であったのに対し、申立人との父子関係は希薄であったため、現在未成年者が心からの信頼を置き、頼りにできる存在は、申立人ではなく相手方であることにある。その他の要因として未成年者が挙げる申立人の暴力や暴言は、確かに相当な言動とは言い難く、その点では申立人も反省すべき点があるが、前記第3の1(5)ア記載のとおり、夫婦喧嘩の際になされた1回限りのものであって、その他に直接未成年者に向けられた暴力や暴言は認められない(未成年者は、審問において、上記暴行事実のほかには思い当たらない旨供述している。)。そして、未成年者と同様の体験をしている二女や長男は、申立人に対して恐怖心を抱くこともなく、現在申立人と同居あるいは交流をしている。また、未成年者は、その審問において、高校の入学式の際に申立人から欲しい物を購入してもらい嬉しかったという想い出も素直に吐露する一方で、申立人と別居して以降、相手方や長女から申立人との紛争内容や申立人の問題点のみを一方的に聞かされている様子もうかがえ、申立人に対する悪感情のみが増幅する環境にあるといえる。これらの事情を併せ考慮すると、未成年者が述べる申立人の暴力や暴言は決定的な要因とは認め難い。なお、証拠(略)によれば、未成年者は、申立人が未成年者の居所を調べ上げたり、突如未成年者の通学する高校に架電し、学資保険があるから進学の学費は心配しなくてもよい旨の伝達を学校教諭に依頼したりするなどしたことも申立人を拒絶する理由である旨述べる。確かに、申立人のかかる行為には未成年者の心情に対する配慮に欠けていた面があり、今後は配慮を要するものではある。しかし、本件が当庁に係属して以降も申立人が未成年者を略奪するような様子を見せたことはなく、申立人によって未成年者の生活の平穏が具体的に害された事実や、未成年者が社会生活を営むのに著しい支障が生じた具体的事実も認められない中で、頑なに居所の移転を当裁判所に対してすら秘匿し続けた相手方にも非がある。父親として子供の居住環境の悪化を真剣に心配した申立人のみを非難することは相当でない。また、高校教諭に架電し伝言を依頼した点も、申立人との手紙のやり取りをも含めた面会交流が全く実現されず、相手方からも積極的な協力が得られず、直接高校の行事等に赴くことも許されない状況下では、未成年者の将来を案じた末の父親の行動として致し方がない面もある。むしろ、この点は、母である相手方から、このような申立人の行為は親としての情によるものであることを未成年者に諭すなどして悪感情の払拭に努めても良いように思われる。これらの事情に照らすと、未成年者の申立人に対する拒絶の意思は、例えば、親から虐待を受けてきた子供の拒絶反応のような合理性を有する強固なものとまでは認め難い。
(5) まとめ
 家事事件手続法(以下「法」という。)65条において「審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。」と規定されていることを考慮すると、17歳である未成年者が相手方の下での監護を強く希望する意思を示している以上、本来、かかる未成年者の意思は尊重されるべきである。また、前記のとおり、未成年者が精神的に頼りにしている存在は、申立人ではなく相手方であるところ、このような濃密な母子関係と申立人との希薄な父子関係は、申立人との同居時から長い年月をかけて形成された強固なものである。かかる相手方との強固な精神的な絆を考慮すると、精神的な絆が全くない申立人の下で生活するとなれば、未成年者の精神的負担が大きいことは否めない。
 しかしながら、相手方がB会への参加を続ける以上、B会に関する環境に限定されることとはいえ、未成年者の福祉を害する相手方の監護環境は、もはや看過できぬ程度にまで至ってしまっているといわざるを得ない。しかるに、相手方は、Kの指示に盲従し、未成年者の目の前で暴行行為が行われている事実をただただ否認するのみで、未成年者の価値観が前記のように看過できない方向に変容していることや、二女のみならず相手方と行動を共にしていた長男ですら相手方の下を去るに至ってしまった現状を真正面から受け止めず、母親として何の対処もしていない。この点、相手方は、未成年者がB会の集会に参加するか否かは未成年者の意思に委ねる旨述べるが、Kの指示に盲従し、長男がKによる暴行行為を受けていた際にも、母親として我が子を守る術を何ら見出すことができなかった相手方のこれまでの言動を考慮すると、相手方の下で監護がなされる限り、B会の集会やKの自宅での集まり等に未成年者を参加させないということは現実的には難しく、未成年者の福祉を害する環境は今後も継続していく蓋然性が極めて高い。法65条も「子の意思を考慮しなければならない」と規定するに止まり、その意思に必ず従って審判をしなければならないものではない。子の意思に従って審判すると、かえって子の利益に反する結果になりかねない場合には、子の利益の観点から別途後見的に考慮する必要がある。
 そこで、申立人の下での監護につき検討するに、確かに、未成年者は、申立人との親和性が希薄であるから、当初は申立人の下での生活による精神的負担も十分予想されるところである。しかし、申立人は、ここに至ってようやく未成年者の監護に強い意欲を示し始めており、経済的にも物理的にも安定し、未成年者が長い年月生活してきた申立人宅において、二女や長男とも交流を図りながら監護がなされる環境も整えられていることを考慮すると、未成年者の精神的負担も徐々に緩和される可能性も十分あるといえる。
 そうすると、相手方の監護環境に前記のとおり看過できない問題がある現時点においては、かかる問題が解消されるまでの間は、ひとまず申立人の下で監護がなされた方が未成年者の利益に合致するというべきである。
 よって、申立人を監護者として指定するのが相当である。
3 子の引き渡しについて
 上記2記載のとおり、申立人を未成年者の監護者と指定するのが相当である以上、未成年者は申立人に引き渡されるべきである。

 

【抗告審(福岡高裁平成29年3月30日決定)】

(2) 抗告理由に対する判断
 抗告人は、原審判につき、〈1〉未成年者らとの同居中における相手方の暴力や言動、酒癖の悪さ、浪費、未成年者の監護への関心のなさ、未成年者との関係性の希薄さなどの、相手方の監護能力のなさや監護態勢の不十分さ、〈2〉別居後2年以上にわたり未成年者が安定した生活を送ってきたこと、及び〈3〉18歳である未成年者が抗告人による現在の監護態勢が続くことを強く希望していることや、相手方の下で生活することになった場合の不利益については軽視する一方、〈4〉抗告人が悩みを相談していた団体であるF会の実態や未成年者への影響の程度について、誤った事実認定を行うとともに、その認定事実を過大に評価し、「かかる環境が未成年者の福祉を害する」と断じた点において、判断を謝っているとしてるる主張する。
 しかし、F会の中間的リーダーであるDによる暴力行為等の点を含め、原審判の事実認定は、本件の証拠関係に照らし相当であって、原審判が事実を誤認しているとは認められない。また、原審判が、抗告人において熱心に参加するF会の集会等でDが暴力を振るうのを未成年者が度々目にしているとの認定事実に基づき、そのような環境が未成年者の福祉を害すると評価したのは、当然のことであって、何ら判断を誤ったものとは認められない(なお、この点は、原審判が、未成年者による「Dが頬を叩くのは、参加者側に報告を怠る等の落ち度があるからであり、仕方のないことだと思う。」との発言に関し、社会的な認容限度を超える限度にまで未成年者の価値観が変容していると評価したことについても、同様に当てはまるものである。)。さらに、原審判は、未成年者が「今後も抗告人による監護を強く希望する。相手方のところに行くつもりは一切ない」旨述べていることにつき、未成年者の監護を積極的にしてこなかった相手方の行為に起因する父子関係の希薄さに裏付けられたものであって、未成年者の真意によるものであると認められるとしたり、相手方の監護能力は実績の点では抗告人よりも大きく劣っているとするなど、抗告人において原審判が軽視しているとする事柄についても、十分に考慮に入れていることが明らかであり、抗告人が主張するように、いわば抗告人に有利な事情を軽視した結果、判断を誤ったものであるとも認められない。
 その他、当審における抗告人の主張立証によっても、前記判断を覆すことはできない。
(3) そうすると、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

 

高校生の子どもが現に母親と暮らしており、なおかつ今後も母親と暮らすことを望んでいたにもかかわらず、父親を監護者と指定し、父への子の引渡しを命じており、かなり珍しい事例といえます。

このような判断の背景には、母親が熱心に参加する宗教団体との関りが、未成年者の福祉に反するという点を重視したものと思われます。

 

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