【大阪の離婚弁護士が教える】父親が監護者に指定された事例⑥
【一審(名古屋家裁一宮支部令和2年2月13日審判)】
2 検討
(1) 上記認定事実によれば、同居中においては、申立人が未成年者の主たる監護者として養育してきたこと、婚姻生活の中で申立人が精神的に不安定になり、刃物を持ち出すなどに至ったことから相手方が未成年者を連れて相手方の実家に転居して別居し、以後未成年者は相手方の実家において相手方が監護養育していること、別居後における相手方の未成年者に対する監護状況について問題点はみられず、未成年者と相手方や監護補助者である相手方の父母との間にも問題は見られず、未成年者は進学した小学校でも順調に過ごしており、現在の生活に適応しつつあること、相手方は申立人と未成年者の面会交流に協力し、月2回の面会交流の実施を継続して実現していること、未成年者自身が現在の生活の継続を希望していることなどの事実が認められる。
そうすると、現状において、相手方の未成年者の監護状況に大きな問題はなく、相手方が親権者として不適格と思える事実も、監護の現状を大きく変える必要性も認められず、かえって、現在の生活環境を継続することが未成年者の健全な発育に資するというべきである。
そして、相手方が単独で未成年者を監護するに至った契機は、精神的に不安定な状況が続いていた申立人が刃物を持ち出すに至ったことにあり、相手方は、申立人の精神状態に鑑みて、親権者として未成年者の安全を確保するために未成年者を連れて別居したものと認められる。このような相手方の行為は、暴力的行為を伴っていないのみならず、むしろ未成年者の保護に必要な行為であったというべきであり、違法な点は認められない。相手方の未成年者の監護の開始には違法な点は認められない。
(2) 申立人は、未成年者が相手方の下にいるのは父母の同意によるものではなく、現在未成年者が相手方に監護されていることは監護者指定においては考慮してはならないし、既成事実を獲得して親権をとることを目的とする行為であり、連れ去りにあたり、このような行為に及んだ相手方は監護者に適していない、従前の未成年者の監護者は申立人であり、未成年者が女性でもあり、監護者には申立人が適しているなどと主張する。
しかし、相手方が単独で未成年者を監護するに至った経緯や相手方の未成年者の監護の開始に違法な点が認められないのは前記判示のとおりであり、適法に始まった相手方による未成年者の単独監護において未成年者が安定した生活を継続していることは、未成年者の監護に関する処分を決めるに当たって重要な要素として考慮せざるを得ない。また、前記判示のとおり申立人は精神的に不安定になった末家庭内で刃物を持ち出したのであり、そのような状況の申立人に未成年者の監護を委ねることが未成年者の福祉に適うとは認められないし、申立人が、相手方や未成年者との別居後も、前記認定のとおり頻繁に通学路や学校に現れ、ことさらに未成年者やその周辺の者に申立人と相手方が紛争状態にあることを誇示するかのような行為に及んでいることからすれば、申立人が未だに精神的に不安定な状況にあることは明らかである。そうすると、申立人が同居時には未成年者の主たる監護者であったことや申立人が未成年者と同性であることを考慮しても、申立人が相手方よりも未成年者の監護者として適していると認めることはできない。
その他、申立人が縷々主張することを考慮し、本件記録を精査しても、上記結論を左右しない。
3 結論
したがって、未成年者については、現在の生活環境を継続することが未成年者の健全な発育に資するものであるし、現在の監護環境の始まりにおいても現在の監護者である相手方において違法は行為は認められないから、現在の未成年者の監護環境を継続することは未成年者の福祉に適い、かつ社会正義に反するところもないというべきである。
そうすると、申立人の申立てには理由がないことに帰するから、主文のとおり、審判する。
【抗告審(名古屋高裁令和2年6月9日決定)】
1 当裁判所も、相手方による未成年者の監護の開始には違法な点は認められず、抗告人が相手方よりも長女の監護者として適していると認めることはできないから、抗告人の監護者指定の申立てを却下するのが相当であると判断する。
(中略)
2 当審における抗告人の主張に対する判断
(1) 抗告人は、本件では未成年者の監護者指定の審判申立てがされたのであるから、裁判所としては抗告人と相手方のいずれを監護者とするのが未成年者の利益に合致するかを審理判断すべきであり、抗告人よりも相手方の方が監護者として相応しいと考えたときは相手方が監護者指定の審判申立てをしていなくても相手方を監護者として指定する旨の審判をすべきであるのに、原審判は、抗告人の監護者指定の申立てを却下しただけで、相手方を監護者として指定しなかったばかりか、抗告人の申立てを却下した理由も全く述べておらず、理由不備は明らかであるなどと主張する。
しかしながら、未成年者の監護者指定の審判の申立てがされた場合に、常にその審判の主文において当事者のいずれが監護者になるべきかを指定することが要求されているわけではなく、また、原審判は抗告人の監護者指定の申立てを却下した理由を詳細に述べているから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(2) 抗告人は、原審判は別居前に抗告人が未成年者の養育監護に当たった事実を認定しているのに、未成年者の監護者を決定するに当たり、重要な要素である抗告人の過去の監護実績を無視しており、理由不備ないし審理不尽であると主張する。
しかしながら、補正の上引用した原審判「理由」第3の2(1)及び(2)によれば、未成年者の監護者を決定するに当たり、別居前に抗告人が未成年者の主たる監護者であったことは考慮されているから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(3) 抗告人は、未成年者が女子であることからすれば、その将来の成長を考えると同性である抗告人が監護者として適切であるにもかかわらず、原審判は現在のことしか考慮しておらず、将来の未成年者の成長について触れておらず、監護者の適格性の検討が不十分であると主張する。
しかしながら、補正の上引用した原審判「理由」第3の2(2)によれば、未成年者の監護者を決定するに当たり、抗告人が未成年者と同性であることは考慮されているから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(4) 抗告人は、原審判は抗告人が精神的に不安定になった末に刃物を持ち出したことを過大に重視しているが、将来的に抗告人が相手方と離婚することは確実であり、今後は抗告人にストレスが生じることはあり得ず、抗告人は精神的に安定していることから、抗告人の刃物持出し行為を過大視した原審判は不当であると主張する。
しかしながら、抗告人が相手方と離婚した後も何らかの原因により精神的なストレスを抱え、それに伴って危険な行為に及ぶ可能性も否定することはできないから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(5) 抗告人は、未成年者は370号事件におけるD調査官との面接において相手方との同居と抗告人との同居のどちらを選択するかを明確に述べたわけではないのに、原審判は未成年者が現在の生活(相手方との同居)の継続を希望していると評価しており、その評価には誤りがあると主張する。
しかしながら、原審判は、370号事件における未成年者の監護状況の調査において、未成年者が相手方実家で相手方や相手方の父母と笑顔で接していたことや、未成年者がD調査官との面接において少し考え込んだ上で「住むのは○○の家(相手方実家)が楽しくていい、……抗告人の弟の子らが戻ってきたら○○○の家(抗告人の実家)で遊びたい」と述べたことなどから、未成年者が相手方との同居の継続を希望していると評価したものと考えられるのであり、かかる評価は不当であるとはいえないから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(6) 抗告人は、原審判は抗告人が未成年者に会うために通学路等で待っていることが抗告人の精神的不安定を表す行為であると評価しているが、その評価は誤りであると主張する。
しかしながら、原審判は、抗告人が未成年者の通学路や学校に現れたり、抗告人に未成年者やその周辺の者に抗告人と相手方が紛争状態にあることを誇示するかのような言動があったことから、これらをもって抗告人が精神的に不安定な状態にあると評価したものであり、かかる評価は不当であるとはいえないから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(7) 抗告人は、原審は抗告人が申し入れていた家庭裁判所調査官による調査を全て却下し、未成年者が通学している学校の調査すら行うことなく審判をしたものであり、原審判は調査不十分で審理不尽であると主張する。
確かに、原審及び審判移行前の調停事件において家庭裁判所調査官による調査は行われていないが、審判移行前の調停事件と同時進行で手続を進めていた370号事件において、D調査官は、抗告人から直接話を聞き、また、相手方実家に赴き、未成年者、相手方及び相手方の父母から直接話を聞いた上で未成年者の監護状況に関する調査報告書を作成し、原審は、D調査官が370号事件で行った上記調査結果に基づいて審判しており、本件を判断する上で必要な調査は370号事件において行われたものと認められるから、抗告人の上記主張は採用することができない。
(8) 抗告人は、他にるる主張するが、いずれも以上に説示した認定判断を左右するに足りるものではなく、採用することができない。
子どもが父親と一緒に暮らしている点や別居の経緯等を重視して、父親が監護者に指定されました。
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